秋冬モデルはマルチキャリア化で最大9.3Mbpsに――KDDIの湯本氏
ワイヤレス・テクノロジー・パーク2010のセミナーに登壇したKDDI コンシューマ技術統括本部 モバイルネットワーク開発本部長の湯本敏彦氏が、高速化のロードマップに言及。今秋にもマルチキャリア化により、下り最大9.3Mbpsを実現するという。LTEの商用サービスは2012年12月に提供する予定だ。
「ワイヤレス・テクノロジー・パーク2010」のセミナープログラムで、KDDIからはコンシューマ技術統括本部モバイルネットワーク開発本部長の湯本敏彦氏が登壇し、「移動通信システムの高速大容量化に向けたKDDIの取り組み」と題した講演で同社ネットワークの進化のロードマップを説明した。
コンテンツは「少頻度大容量」「多頻度小容量」への2極化
EZwebにおけるデータ転送量の推移を見ると、通常のWebサイトへのアクセスで発生するデータの量はあまり変化していないのに対し、2008年半ばごろからYouTubeの視聴によるデータが、2009年ごろからはSNSへのアクセスで発生するデータが顕著に増加している。また、アクセスの回数で見ると、YouTubeや着うたといったダウンロード系のコンテンツは少数なのに対し、SNSは2009年秋ごろからのソーシャルゲームの流行により急増している。
つまり、コンテンツの容量は大きいがアクセスが発生する回数は少ない「少頻度大容量」型のトラフィックと、サイズ自体は小さいが回数が多い「多頻度小容量」型のトラフィックがこれまでにない増加を見せており、今後もこの傾向が続くと考えられている。
また、同社の場合、全トラフィック量のじつに45%はわずか上位3%のヘビーユーザーによるものであり、それらヘビーユーザーは残り97%のユーザーの25倍以上の通信を発生させていることになる。特に使用量の多い一部のユーザーには帯域制限を実施しているが、現状では焼け石に水で「効果は十分とは言えない」(湯本氏)という。
auもWi-Fiやフェムトを相次いで導入
このようにモバイル通信の新しい使い方が広がる中、現行方式では限界に近い高トラフィックに対応するためには、新たな通信方式の導入が必要で、KDDIも2012年からLTEのサービスを開始する方針だ。ただし、LTEが始まるまでのこの先2年間にもトラフィックは増大し続けるため、現行ネットワークも順次アップデートを図っていく。今回、LTE導入までの間に実現する予定のネットワークの進化として挙げられたのは以下の4点だ。
- Wi-Fi WIN
- auフェムトセル
- EV-DOマルチキャリア
- 音声設備のエンハンス
1点目の「Wi-Fi WIN」は、2009年夏モデルの「biblio」で対応した無線LANによるデータ通信サービスで、その後2010年春モデルの「AQUOS SHOT SH006」が対応機種に追加されている。同社は「ワイヤレスジャパン2009」でmicroSDカード型の無線LANモジュールを発表していたが、これを早ければ今年の夏モデルから採用する。ユーザー宅のブロードバンド回線にデータトラフィックを逃がすのは、基地局の負荷を低減するのに最も即効性がある方法であるため、microSD型モジュールを利用してWi-Fi WIN対応機種を拡大したい考えだ。
2点目の「auフェムトセル」は、この春よりユーザートライアルを実施中で、夏以降にサービスを開始する予定。ユーザー宅に設置する小型基地局であるフェムトセルは、宅内の電波環境を改善できるほか、Wi-Fi同様にデータトラフィックのオフロード(待避)効果も得られるが、KDDIとしての基本的な考え方は「データオフロードについてはWi-Fiが一番適しているし、通常の不感地であればリピーターで十分対応できることが多い」(湯本氏)ということで、あくまで補完的な役割というスタンスだ。
しかし、マンションの高層階や密集したビルの間など、リピーターでの不感地対策が難しい場所についてはフェムトセルによる通信品質向上が期待できるとし、特定エリアの不感地対策ツールとして導入することを決めた。また、同社は2GHz帯にフェムトセル専用のキャリア(搬送波)を1本用意しているため、屋外のマクロセルと干渉する恐れがなく、高い通信品質を提供できるとしている。
秋にはマルチキャリア化で最大9.3Mbpsに
現在のEV-DO Rev.A方式では1.25MHz幅のキャリアを利用して下り最大3.1Mbps(規格上の理論値、以下同)の通信を実現しているが、複数のキャリアを同時に利用することで高速・大容量化を図る「EV-DOマルチキャリア」を今年秋以降に導入する。
現在は、付近の他のユーザーが通信を行っていないとき、別のキャリアが空いているにもかかわらず1本の同じキャリアしか使用できなかったが、マルチキャリア化によって空いているタイムスロットを有効に使えるため、通信速度向上あるいはユーザー収容数拡大の効果が得られる。2本のキャリアが利用できる場合の下り最大速度は6.2Mbps、3本の場合は同9.3Mbpsとなり、他社のHSDPAサービスにも肩を並べる。基地局側はソフトウェア更新のみで対応できるため、一気に全国展開が可能としている。端末側は今年の秋冬モデルから順次対応を進める。
そのほか、これまで音声通話の利用時間は一貫して漸減傾向にあり、2003年度初めに180分ほどだった1ユーザーあたりの平均月間通話時間は、それから約5年で140分程度まで減少した。しかし、指定番号への通話割引サービスを導入して以降、通話時間は減少から横ばいに変化しており、音声ネットワークの効率化が必要となっている。このため、今年夏から音声通話に「EVRC-B」と呼ばれる高能率コーデックを導入し、周波数の利用効率を高める。将来的には、現在音声サービスを収容しているCDMA 1Xのキャリア数を削減し、EV-DOやLTEのキャリアに転用していくことも検討する。
また2009年から、従来の回線交換網をIP化する作業を始めている。コアネットワーク側はIMSによるIP網とし、無線ネットワーク側との間にaMSC(advanced Mobile Service Center)を置くことで、回線交換サービスをIP網上で実現する。これにより、古くなった回線交換網用設備の運用・保守コストを削減できるほか、IMSはLTE導入後にそのまま利用できるため、実質的にはLTEの準備を前倒しで行うことができる。
端末はCDMA2000とのデュアル対応、LTEでも事業者間の互換性はまだ先
LTEの商用サービスは2012年12月に開始する予定。2014年度末には周波数再編後の800MHz帯を利用したエリアを人口カバー率で96.5%、局数にして2万3000局まで整備する予定で、これは現在のEV-DO Rev.Aエリアに相当するイメージだという。また、新たに割り当てられた1.5GHz帯の10MHz幅をトラフィック過密地域での容量補完用としてサービス開始当初より利用し、こちらは2014年度末までに人口カバー率50数%、5000局を整備する。
LTEでも音声通話は当面CDMA 1X網を継続利用するほか、データ通信もLTEエリア外ではEV-DOマルチキャリアで通信できるようにするため、端末はCDMA2000/LTEのデュアルモードとなる。LTEを導入する他の携帯電話事業者も、当面は現行3Gとの何らかの互換性を持たせる必要があるため、似たような事情がある。湯本氏は「LTEになればすべての事業者間で端末の互換性が生まれると思われているが、既存の方式との互換性が必要なので、LTEが導入できたからといってすぐにそうはならない」と指摘する。
また、端末はCDMA 1X網での音声着信を常に待ち受けていなければならないが、LTE通信中にCDMA 1X側で定期的に通信が発生すると、LTE側の通信品質低下につながるほか、端末の消費電力も増加するため、ページング(呼び出し)についてはLTE側で行い、その後CDMA 1Xに切り替えるという仕組みを採用している。
音声通話用のCDMA 1X網は、現在の見通しでは2020年代までサービスを続けることが可能な見通しだという。CDMA 1X網のサービス終了に十分な余裕をもってVoice over LTEのサービスを開始するとしており、2010年代半ばにはLTE上での音声サービスが開始される見込みだ。データ通信についてはEV-DOの帯域を順次LTEに転用し、音声よりも早く置き換えが進んでいくと考えられる。
2010年3月から栃木・那須塩原で2GHz帯を利用したフィールドトライアルを実施しており、今年度後半からは関東地方のより広いエリアで1.5GHz帯を利用して基本パラメータのチューニングを、来年度以降はCDMA2000との協調動作の検証などを行っていく予定となっている。
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