地熱発電は日本に限らず全世界で拡大が見込まれている。現時点では高温の熱水から発生する蒸気で発電機を回す「フラッシュ方式」が主流だが、今後は低温水を利用したバイナリー方式に加えて、2020年代から「EGS(Enhanced Geothermal Systems、涵養地熱システム)」と呼ぶ新しいタイプの発電設備が広がっていく。2050年には地熱発電の約半分をEGSが占める予測も出ている(図7)。
EGSの代表的な方式に「高温岩体発電」がある。地下にある高温状態の岩盤に割れ目を入れて、そこに地上から水を送り込んで高温の蒸気を取り出す方法だ。すでに欧米各国で実証プロジェクトが始まっていて、2020年代に向けて実用化の取り組みが着々と進んでいる。
今のところEGSの発電コストは従来のフラッシュ方式と比べて1.5倍程度と高く、コストダウンが最大の課題だ(図8)。地熱発電は設備自体のコストを大幅に引き下げることは難しいため、探査・掘削コストの低減と発電効率の改善が重要になってくる。米国のエネルギー省では2030年までに1kWhあたり6円(6セント)を目標に設定して、EGSの技術開発を推進中である。
その一方でブラッシュ方式とバイナリー方式の発電コストは、長期的に見てもさほど低下しない(図9)。すでに欧米では1kWhあたり10円を下回っていて、コストを削減できる余地が小さくなっているためだ。
ただし電力そのものの卸売価格が全世界で上昇していく見通しで、それに伴って地熱発電のニーズは高まると予想されている。地下を掘削することによる環境破壊の問題も懸念されるが、当面は火力と原子力を代替できるベース電源として期待は大きい。
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