エネルギー自給率40%超へ、営農型の太陽光発電にも挑むエネルギー列島2016年版(10)群馬(2/3 ページ)

» 2016年06月28日 09時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

世界最大級の揚水式発電所を建設中

 群馬県は古くから水力発電が活発で、最近では中小水力発電の導入プロジェクトも増えてきた。県営の水力発電所だけで大小を合わせて現在32カ所ある(図5)。その中で最も新しい水力発電所は、東部を流れる渡良瀬川(わたらせがわ)の上流域に建設した「田沢発電所」である。2016年5月20日に運転を開始したところだ。

図5 群馬県が運営する水力発電所。出典:群馬県企業局

 田沢発電所は川の上流から水を取り込んで、山中に埋設した導水路と水圧管路を使って約1キロメートル先にある水車発電機まで水を送る(図6)。これで水流の落差は142メートルになる。最大で1.85立方メートル/秒の水量を生かして2MWの発電が可能になった。大きな落差と豊富な水量を生かせる横軸フランシス水車で発電する。

図6 「田沢発電所」の発電設備(画像をクリックすると水車発電機を拡大)。出典:群馬県企業局

 年間の発電量は770万kWhになる見込みで、2100世帯分の電力を供給できる。発電した電力は固定価格買取制度で売電する方針だ。買取価格は1kWhあたり24円(税抜き)になり、年間に1億8500万円の収入を得られる。

 買取期間の20年間で売電収入は37億円になる想定だが、一方で建設費に35億円かかった。さらに毎年の運転維持費がかかる。買取期間が終了した後でも運転を続ければ十分に採算をとることが可能だ。水力発電は同じ設備のまま長期間にわたって運転を続けられるメリットがある。

 群馬県の北西部にある東吾妻町(ひがしあがつままち)では、珍しい湧水を利用した小水力発電事業を推進中だ(図7)。森林を流れる「箱島(はこしま)湧水」の水量は1日あたり3万トンにのぼり、町内の飲料水や農業用水に使われている。

図7 「箱島湧水発電事業」の実施場所。出典:東吾妻町

 この湧水を発電にも利用する。取水口と発電所のあいだに生まれる85メートルの落差を使って、最大で170kWの電力を供給できる。2017年5月に運転を開始する予定だ。東吾妻町は発電事業を実施するにあたって、民間企業の資金とノウハウを生かせるPFI(プライベート・ファイナンス・イニシアチブ)方式を採用した。

 群馬県内では壮大な水力発電所の建設プロジェクトも進んでいる。山岳地帯に造成した2つのダムを組み合わせた揚水式の発電所だ。東京電力が1997年に建設を開始した「神流川(かんながわ)発電所」である(図8)。合計で6基の水車発電機を設置して、282万kWの電力を供給する。揚水式の発電所では世界で最大級の発電能力になる。

図8 「神流川発電所」の所在地。出典:東京電力

 揚水式は川の上流と下流に2つのダムを設けて、そのあいだを太い水圧管路でつないで水車発電機に大量の水を送り込む。下流のダムにたまった水を夜間の余剰電力で上流のダムまでくみ上げ、昼間の電力需要が増える時間帯に水を流して発電する方式だ(図9)。2つのダムの落差は650メートルにもなり、地中には直径6.6メートルの水圧管路を1キロメートルにわたって埋設した。

図9 「神流川発電所」の上部ダム(上)と下部ダム(下)。出典:東京電力

 6基で構成する発電設備のうち1号機と2号機は運転を開始した(図10)。残る3〜6号機は2022年度以降に運転を開始できる見通しだ。6基すべてが稼働すると、発電に利用する水量は1秒あたり510立方メートルにのぼる。

図10 「神流川発電所2号機」の全景。出典:東京電力

 神流川発電所が全面稼働して282万kWの電力を供給できるようになれば、1世帯あたりの電力需要を3kWと想定して94万世帯をカバーできる。群馬県の総世帯数(76万世帯)をはるかに上回る規模で、特に夏の昼間に電力需要がピークに達した時の有効な電力源になる。

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