低圧蓄電所市場が急速に立ち上がろうとしている。その背景と「低圧」ならではの魅力、加熱する業界の動きを「PV EXPO」で探った。
需給調整市場への低圧エネルギーリソースの参入が2026年4月に解禁されて以降、系統用蓄電所ビジネスの関心が「高圧」から「低圧」へと急速にシフトしつつある。2026年9月9〜11日に幕張メッセで開催された「スマートエネルギーWeek【秋】2026」のPV EXPO会場でも、蓄電所開発、投資物件紹介、アグリゲーター、蓄電池商社など、低圧蓄電所に関わるプレイヤーのブースが目立った。低圧解禁から半年に満たない状況の中、蓄電池市場のブルーオーシャンを求めて加熱する業界の動きを整理する。
太陽光発電など変動性再エネの大量導入が進む一方で、出力制御や電力価格の変動、調整力の確保といった課題の解決に向けて、系統用蓄電所はすでに不可欠な存在となっている。同時に系統用蓄電所は、卸電力市場や需給調整市場、容量市場など複数の電力市場で収益を上げることのできるビジネスとして、大きな投資を呼び込んでいる。
複数の電力市場の中でも、現時点で、多くの事業者が収益の大半を稼いでいるのが需給調整市場だ。冒頭述べたように、この需給調整市場に2026年4月から低圧(50kW未満)のエネルギーリソースも参入可能となった。このことにより、低圧蓄電所ビジネスが、今一気に立ち上がろうとしているのだ。
ただし、低圧の蓄電システムが単体で需給調整市場に参入できるわけではない。需給調整市場の最低入札量は1MW(1000kW)であるためだ。そこで、アグリゲーターが低圧蓄電所を21カ所以上束ねて1MW以上(49.9kW×21=1047.9kW)のVPP(バーチャルパワープラント)を構築し、すべての低圧エネルギーリソースを一体として運用することで市場参入を果たすことになる。
低圧蓄電所には、これまでの高圧蓄電所にはなかった事業上のメリットがある。まず一つ目は、まとまった広い用地を必要としないということだ。需給調整市場に参入するためには最低でも21カ所以上が必要になるわけだが、それぞれの用地にはキャビネット型の中規模産業用蓄電システムを1基設置できるスペースがあれば良い。
具体的には約20m2(6坪)の土地があれば、一つの低圧蓄電所を構築できる。これまで活用できなかった狭いスペースも生かせるし、新たな用地探しも比較的容易に行えるというわけだ。大規模な土地開発を行う必要がないので、環境負荷も少なくて済む。
第2に、事業開始までのリードタイムが、高圧に比べて短いというメリットがある。その最大の理由は、高圧以上では必須となっている契約申し込み前の「接続検討」が、低圧では原則として不要とされているためだ。高圧の場合、一般送配電事業者に接続検討を申し込んでから回答が来るまでの標準期間は3カ月程度とされているが、実際には6カ月以上かかるケースも珍しくなかった。
需給調整市場の上限価格は随時引き下げられており、一次調整力では2026年3月にkW当たり19.51円から15円へ、9月の実需給分からは10円へと段階的に下がっている。将来的にはさらなる引き下げも予想されるだけに、事業者にとっては「早く始めて、価格が高いうちに稼ぐ」ことが重要な戦略となっていた。こうした状況にあって、リードタイムが相対的に短い低圧蓄電所への期待は、いっそう高まっている。
ただし、契約申し込み前の接続検討がないからといって、検討自体が不要とされているわけではない。契約申し込み後に技術協議や連系検討が行われることとなっており、このプロセスでどの程度の時間を要するかは不確かだ。現在、低圧蓄電所の契約申し込みが急増しており、事務手続きの混雑も予想される。余裕を持った事業計画が求められるところだ。
3つ目のメリットは、サイバーセキュリティに関する認証制度である「JC-STAR」への対応において、猶予期間が得られるということだ。高圧や特別高圧の蓄電所の場合、2027年4月の契約申し込み分から、JC-STARの「★1」を取得した蓄電システム(PCS、BMS、EMSなどを含む)を使うことが系統連系の要件となる。しかし、低圧蓄電所には猶予期間が設けられており、低圧の連系要件として★1取得製品の使用が必須となるのは2027年10月の契約申し込み分からとなっている。
高圧や特別高圧の場合、これから手掛ける案件については、接続検討期間を考慮すると契約申し込みが2027年4月以降になることも予想されるため、JC-STARへの対応は待ったなしだ。とはいえ、日本市場で大きなシェアを占めてきた中国主要メーカーの多くが★1を取得できていないため、事業者は製品選びに窮(きゅう)する事態におちいっている。しかし、低圧蓄電所であれば、2027年10月まで間があるので、JC-STAR適用前に契約申し込みをすることが可能だ。そのため、これから手掛ける案件であっても、当面は★1未取得の製品を使ってシステムを組むことができる。
この他、低圧には電気主任技術者の選任が不要という運用面の負担軽減もある。一方で、低圧は21カ所以上を束ねてVPPとして運用する必要があり、高圧とは異なる運用ノウハウが求められる。アグリゲーターの実力が、高圧以上に事業の成否を左右する構造であるといっても良い。
投資額の面では、高圧蓄電所がおおむね5億円超であるのに対し、低圧蓄電所は1カ所当たり2000万円台に抑えられる。投資案件としては、より投資しやすい規模であり、投資家の裾野を広げることにも役立っている。
ただ、ここで注意しなければならないのは、実際にVPPとして稼働している低圧蓄電所はまだ存在していないということだ。投資案件として紹介されている利回りはすべて期待値であり、実績をもって語り得るものはない。この先、需給調整市場での運用が始まった低圧蓄電所が期待通りの収益を上げることができるのか、大いに注目されるところだ。
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