エアライン各社の技術陣の中には、新しい素材を使用した787の導入に当初は慎重な意見も少なくなかった。私も実際に材料サンプルを手に取ってみたが、本当に薄くて軽い。こんなヤワそうな素材で機体の強度は大丈夫なのか? そう不安を抱いたほどだ。新機種の選定に携わってきたANAの整備エンジニアも以前、こんな話をしていた。
「不安に感じたのは私たちも同様です。とくに心配したのが、素材にヒビが入ったりしたら、どうやって直すのかということ。そこで材料サンプルを持ってきて、叩いて壊してみようということになった。そうしてヒビが入った部分をどう検査し、修理すればいいかをみんなで考えていこう──と。ところが、ハンマーで叩いて壊そうとしても、自分の手が痛くなるばかりでいっこうに壊れない。それで『強度も大丈夫、これなら心配ない』と私たちも納得したという経緯があります」
この画期的な新素材の開発で重要な役割を果たしてきたのが、じつは東レなど日本を代表する繊維メーカーだった。素材だけではない。787は主翼やボディの主要パーツの製造にも、三菱重工業や川崎重工業、富士重工業といった日本メーカーが大きく関わっている。トータルで見れば、部品の3分の1以上が日本製だ。取材でその話題に触れると、ボーイングの技術者たちは「“メイド・イン・ジャパン”のテクノロジーがなければ787の誕生もなかったよ」と一様に口をそろえた。
シアトルのエバレット工場内部を視察していたちょうどそのとき、胴体中央部がずんぐりとした奇妙な形の飛行機が2機、相次いで隣接する滑走路に舞い降りた。“ドリームリフター”である。日本語に訳すと「夢を運ぶ飛行機」。787の主要パーツの製造を担当する海外の協力メーカーから、完成部品をここシアトルの最終組み立て工場に輸送するためにつくられた飛行機だ。2007年春には、三菱重工業の名古屋工場で製造された主翼部分を空輸するため、セントレア(中部国際空港)にも初上陸した。それ以後も日本とアメリカの間を何度も往復し、完成した日本製パーツを運び続けている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PRアクセスランキング