パイロットの命を救う「航空計器」としての腕時計LONGINES HERITAGE COLLECTION(1/2 ページ)

» 2013年07月22日 08時00分 公開
[篠田哲生,Business Media 誠]

著者プロフィール:篠田哲生(しのだ・てつお)

1975年生まれ。時計ライター。講談社『ホット ドッグ・プレス』を経て、フリーランスに。時計学校を修了した実践派で、時計専門誌からファッション誌、Webなど幅広い媒体で時計記事を執筆。高級時計からカジュアルウォッチまでを守備範囲とし、カジュアルウォッチの検索サイト『Gressive Off Style』のディレクションも担当。著書に『成功者はなぜウブロの時計に惹かれるのか。』(幻冬舎)がある。


 1832年に創業したロンジンは、スイス屈指の名門時計メーカーである。特に過去の遺産(ヘリテージ)を引用する「ヘリテージ コレクション」は、スイス時計産業の歴史や時計進化の足跡を辿ることができる貴重な存在だ。人気が高い「パイロットウオッチ」の原点は、ロンジンにあった。航空計器として進化したパイロットのための時計である。

パイロットの命を救うロンジンの時計

LONGINES ロンジン 「ウィームス セコンドセッティング ウオッチ」/航空航法の第一人者であるウィームス海軍大佐が考案したナビゲーションシステムに対応したパイロットウオッチを復刻。巨大なケースやリューズも当時を思わせるスタイル。自動巻き、ステンレススチールケース、ケース径47.5ミリ。46万2000円

 20世紀初頭の飛行機黎明期は、飛行機の機体に計器が付いていなかったため、懐中時計やダッシュボードクロノグラフが大いに役立った。その後、専用の航空計器が開発されたものの、激しい振動に見舞われるコックピットでは計器の故障も多く、最終的には自身が持ち込んだ時計による計測が安全な航行の切り札となっていた。

 諸説あるが男性用として初めての腕時計は、パリの飛行士サントス・デュモンのために1906年に作られたとされている。しかしその以前から、多くの飛行士は腕や太腿に懐中時計をとりつけていたそうだ。両腕で操縦桿を握っている状況で懐中時計は取り出せないためだ。

 つまり男性用腕時計の歴史は、パイロットウオッチから始まったといっても過言ではない。1914年には米軍のパイロットたちが実験的に腕時計を使っていたという記録も残っている。

 当時のパイロットはコックピット内に時計とコンパス、地図を持ち込み、飛行しながら現在地を確認して、正しいルートを確認していた。しかし激しく揺れる飛行機の上で行うには、かなり困難な作業である。

 そこでロンジンでは、エアーナビゲーション(航空航法)の第一人者であった米海軍大佐、フィリップ・ヴァン・ホーン・ウィームスと共同で、パイロットのためのナビゲーションウオッチの開発を始める。

 1928年に完成した「ウィームス セコンドセッティング ウオッチ」は、ウィームスが考案した航空航法に必須だったグリニッジ標準時の秒針の読み取りを容易にするため、ダイヤルの内側に秒針用の目盛りを設けていた。さらに正確さを高めるために、秒針目盛りを回転させて、ゼロ位置を設定できる工夫も凝らしている。これは当時の時計が、リューズを引いても秒針が止まらなかったからである。

 高精度と耐久性、そして抜群のナビゲーション性能をもつロンジンの時計たちは、パイロットのための時計として特別な存在となった。その後も多くの傑作が作られたが、それらは現在「ヘリテージコレクション」として受け継がれている。

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