日々のライン整備は、機材が1日の役割を終えた夜間に必要な点検を実施し、翌朝送り出すというスタイルが基本だ。成田に昼間降り立って再び出発準備を進め、次の都市に折り返していく間は、何も必要がなければ整備士は行かない。大手では、ターンアラウンド時に整備士が駐機場のシップサイドまで行き、乗務員に「何かありますか?」と聞いて必要な対応をしているが、ジェットスター・ジャパンでは必要なときにだけ必要な人員を揃えて対応するというやり方を貫いてきた。
そんな部分にも、効率を重視するLCCの“独自性”を垣間見ることができる。
それが可能なのは、最新の旅客機は「自己診断装置」と「空対地データリンク装置(ACARS)」を備えているからだ。上空を飛行中に各システムの状態を自己診断装置でモニターし、その情報が地上でもチェックできるようになっている。地上で待機している整備士たちは、旅客機から送られてくるデータから事前に不具合の原因特定や予備部品の準備を行い、限られた時間の中で迅速に対応できるようになった。
エアバスA320という世界的なベストセラー機を運航している点も、整備の信頼性を高める結果につながっている。A320はこれまで長年の実績を積み重ね、技術的に成熟している機種だ。初期の時代からトラブルへの対策が入念にとられてきた。“想定外”のトラブルというのは、いまではほとんど皆無。トラブルシューティングマニュアルに沿って作業を進めていけば、不具合の原因に行き着き、適切な対応がとれる機種なのである。
ジェットスター・ジャパンの整備部門には現在、約90名のスタッフがいる。年齢層は20代から60代までと幅広い。そのうちの40名が、現場のライン整備士である。
成田空港にある彼らのオフィスの大型モニターには、保有する18機のフライトパターンが表示され、必要な場合に「どのシップには誰が行く」といったことがすべて決められている。そのモニターを前に、スタッフたちは日々のブリーフィングにも余念がない。どんな状況でも臨機応変に対応できるフレキシブルな体制がとられている。
あるグループは、降り立った機体のコクピットでの確認作業などに従事。別のシップでは違うスタッフが、脚まわりのチェックとタイヤの交換を進めている。私が取材に訪れた日は、エンジンのカウリング(カバー)を開けての作業風景なども見られた。
「夜間の点検を終えて朝の1便を見送るとき、あるいは折り返し便を再び出発させるときが、この仕事の達成感や充実感を得られる瞬間ですね」
若手整備士の1人が私にそう語った。これは、大手の整備士からもよく聞く言葉である。繰り返すが、LCCだけの安全基準や整備手法などそもそも存在しない。日々の安全運航を支える整備作業をどう効率よく、パーフェクトに進めていくか──そのやり方にのみ、整備におけるLCCの“個性”が現われることを、今回の取材を通じて改めて実感した。
作家/航空ジャーナリスト。東京都出身。学生時代に航空工学を専攻後、数回の海外生活を経て取材・文筆活動をスタート。世界の空を旅しながら各メディアにリポートやエッセイを発表するほか、テレビ・ラジオのコメンテーターとしても活動。
著書に『ボーイング787まるごと解説』『ボーイング777機長まるごと体験』『みんなが知りたい旅客機の疑問50』『もっと知りたい旅客機の疑問50』『みんなが知りたい空港の疑問50』『エアバスA380まるごと解説』(以上ソフトバンククリエイティブ/サイエンスアイ新書)、『新いますぐ飛行機に乗りたくなる本』(NNA)など。
Blog『雲の上の書斎から』は多くの旅行ファン、航空ファンのほかエアライン関係者やマスコミ関係者にも支持を集めている。
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