旅客機が羽をはばたく――どうなってるの? 主翼の構造:秋本俊二の“飛行機と空と旅”の話(3/3 ページ)
「ねえ、見て見て。この飛行機、羽をバタバタしてる」と、フライト中に男の子が声を上げた。それを聞いて「飛行機は鳥じゃないんだから、羽はバタバタしないのよ」と隣のお母さん。さて、どちらが正しいのか? 今回は旅客機の主翼の構造について──。
揚力が働くしくみをスプーン実験で体感
ところで、旅客機を日々利用している人たちの中にも「あの巨体がどうして空を飛ぶのか不思議でならない」と言う人がいる。機体を空中に浮き上がらせるために必要な揚力を発生させるのが主翼の役割だが、では、実際にどんな機能が働いているのか? それを体感する方法はいくつかある。ここでは私が航空工学を学び始めたときに、最初に教授から教わった方法で実証してみよう。
まず、スプーンを一つ用意してほしい。コーヒーをかき混ぜるものでも、カレーライスを食べるものでもOK。次にお風呂場かキッチンへ行って、水道の蛇口をひねって水を出す。写真のようにスプーンの柄の先端を親指と人差し指で軽くはさんでぶら下げ、スプーンの背中の丸くふくらんだほうを流れている水に近づけいくと──どうだろう? スプーンの丸い部分が水に触れた瞬間、スプーンは流れている水に吸い寄せられるはずだ。蛇口をいっぱいにひねって水流を増すと、スプーンはさらに強く水に吸い寄せられる。
これを真横にした形を考えると、飛行機の主翼に発生する「揚力」が理解できる。飛行機の主翼の上面も丸くふくらんでいて、その断面は、じつはスプーンを真横から見た形状とそっくり。水道の流れは空気と考えてほしい。翼の上面に速い速度で空気が流れると「負圧」という空気の圧力の差が生まれ、これが機体を上に持ち上げる揚力になるわけだ。
世界最大の旅客機エアバスA380の主翼は面積が約845平方メートル──バスケットボールのコート2面がすっぽり収まってしまうほどの大きさがある。ジェットエンジンの力で機体が前進し、時速300キロものスピードで翼面を空気が流れることで、乗客を乗せた状態でトータル重量500トンにもなる機体を何の不思議もなく宙に浮かせることができるのだ。スプーンを使った実験は家庭でも職場でも簡単にできるので、ぜひお試しを!
著者プロフィール:秋本俊二
作家/航空ジャーナリスト。東京都出身。学生時代に航空工学を専攻後、数回の海外生活を経て取材・文筆活動をスタート。世界の空を旅しながら各メディアにリポートやエッセイを発表するほか、テレビ・ラジオのコメンテーターとしても活動。
著書に『ボーイング787まるごと解説』『ボーイング777機長まるごと体験』『みんなが知りたい旅客機の疑問50』『もっと知りたい旅客機の疑問50』『みんなが知りたい空港の疑問50』『エアバスA380まるごと解説』(以上ソフトバンククリエイティブ/サイエンスアイ新書)、『新いますぐ飛行機に乗りたくなる本』(NNA)など。
Blog『雲の上の書斎から』は多くの旅行ファン、航空ファンのほかエアライン関係者やマスコミ関係者にも支持を集めている。
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