コラム
2004/04/09 00:00 更新
ITソリューションフロンティア:流通システムの新しい動向
GMSが取り組む顧客視点のマーチャンダイジング
総合スーパー(GMS)が取り組んできた売場ごとの利益管理、売上管理に限界がきている。これからのGMSに求められているのは自店の商圏顧客を知り、顧客の購買行動の仮説を立て、顧客にとって最適な店を作りあげる「個店最適化」である。顧客購買データの蓄積と分析によって、そうしたマーチャンダイジングが可能になってきた。
転換期にあるマーチャンダイジング
GMSと呼ばれている小売業は、衣料品、生活用品、食品と、あらゆる生活シーンの商品を取り揃えて消費者の生活を支えてきた。毎朝、売場ごとに昨日何がいくら売れたかが報告され、売場の担当者や仕入担当は、その数字とこれまでの経験に基づき、それに勘をプラスして「今後何が売れるか」についての仮説を立てるというのが、GMSの商品計画であったと言える。
ところが、顧客の購買動向に関するデータが蓄積されるようになり、GMSのマーチャンダイジングが大きな転換期にさしかかっている。
購買データに基づいて立てられる仮説
各社が発行するポイントカード、クレジットカードによって得られた情報は、今後売れるものの仮説を立てるためのヒントを与えてくれる。それは、誰が買ったのか、なぜ買ったのかあるいは買わなかったのかを示唆する情報だからである。
GMSで衣料品、生活用品、食品のすべてを満遍なく買っている人はほとんどいない。食品しか買わない人、衣料品しか買わない人など、購買スタイルに大きな偏りがあるケースがほとんどなのである。このデータに顧客のプロフィールを重ね合わせると、何らかの傾向がみえる。たとえば、ある店では食品が1 階、日用品は最上階の5階、玩具は2階にある。そこで毎日食品を買っている顧客について、一緒にどんな商品を買っているか調べたところ、日用品は食品の購入金額とほぼ比例しているが、玩具は食品の購入金額が少ない顧客を中心に買われていることがわかった。必要なものを揃えるついでに各階を回ってもらいたいと考えて売場を作ったのだが、このデータからは、子供を連れてシャンプーと食品を買いに来る顧客にとって、この店の売場配置は快適ではなく、子供に玩具をねだられずに買い物ができる食品スーパーのほうが便利だという仮説が導き出される。
顔の見える顧客との対話
なぜ買うのか、あるいは買わないのかについては、自店の顧客に直接聞くのが最も手近で正確な方法である。顧客の声を聞くために、従来からマーケティング会社などに依頼して商圏顧客へのアンケートなどを実施してきた企業は多い。しかし自社カード会員へのインタビューがこれと決定的に違うのは、普段からその店を利用している顧客の声であること、顧客の購買データと重ね合わせれば、その意見が顧客独自のものなのか、店や売場の問題なのかを判断できることである。
ある店で、食品の購買の少ない顧客を集めてインタビューをしたところ、地場の魚がない、適量のパックがないといった鮮魚に関する不満と、惣菜の味付けへの不満が多く聞かれた。この店の購買傾向を見るとたしかに鮮魚と惣菜の売上が他店に比べて低かった。この店の顧客は店に愛着をもって衣料品や生活用品を買いに来ているのであり、鮮魚や惣菜に感じている不満が解消されれば、食品ももっと買ってくれる人たちなのである。
データが組織を動かす
GMSでは、商品の買い付けから末端の売場まで、また商品のカテゴリーごとに組織が細分化されている。地場の魚を取り揃えるためには商品部を動かす必要があり、適量のパックを実現するには鮮魚を対面販売に移行する必要があるかもしれない。したがって、顧客の声を組織の動きに反映させるためには、客観性のあるデータが誰にも納得できる形で提示される必要がある。
ワインの販売促進のために、どの商品が最もワインの併売を促すかを分析したことがある。ナチュラルチーズ購入者の10%がワインも購入していたが、レギュラーコーヒーでは11%、ふりかけでも7%の人がワインを買っていた。このとき、「最も購買確率の高いコーヒー購入者にアプローチすべきである」と考えるか、「この店でワインを買う顧客は1 割程度しかいない」と考えるかによって、その後の方針は全く違ったものになる。
顧客に合わせた個店づくり
GMSではいま、個店ごとに自店の商圏の顧客がどのような人たちなのか、彼らがどのように自店の売場を利用しているかを知る取り組みが行われている。また特定の売場が支持されていない理由を突き止め、店全体を主力顧客のための最適な姿に変えていく取り組みも進められている。それは、ひとつひとつの商品を慎重に吟味して仕入れるように、どんな顧客に何を買ってもらう店なのかを明確にし、個々の店の全体を、特徴のあるひとつの商品として設計することを意味する。この設計に基づいて、売場の配置や商品の品揃え、プライスラインなどが決められていく。
商圏が飽和しつつあるなかで、この取り組みは非常に重要である。そのなかで商品の買い付けの位置付けの見直しも必要となろう。仕入れた物を売るのではなく、売れる物を仕入れることが小売業の原点である。その意味で、GMSのマーチャンダイジングの変化とは、小規模小売店がやってきたことへの回帰であると言えるかもしれない。
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[吉田和弘,野村総合研究所]
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