コラム
2004/04/13 00:00 更新
ITソリューションフロンティア:特集:流通システムの新しい動向
SCMからCPFRへと向かう流通業の取り組み
日本の流通業界において、SCM(サプライチェーン管理)が注目されるようになって久しい。また、いまでは次世代のSCMビジネスモデルといわれるCPFR(協働計画・需要予測・補充活動)が話題になることも多い。しかしその割には、SCMがそれほど成功しているとは言えない。本稿ではその理由と、今後の日本の流通業界の取り組みについて考察する。
SCMへの取り組み
SCMは、流通業界におけるITの具体的な活用方法として、またその効果を示すものとしてERP(統合基幹業務システム)やSFA (営業支援システム)などとともに、その重要性が広く認識されてきている。
SCMとは、サプライ側とデマンド側を融合させ、複数の関連企業が一体となってサプライチェーン(原材料調達、供給から最終顧客への商品販売まで)の最適化を図ることである。そこでは、顧客起点のデマンド情報をサプライ側とデマンド側が共有することが必要である。そのためには膨大な情報の流れを管理することが不可欠で、ITの活用が欠かすことのできないものとなる。
流通業におけるSCMの現状と課題
SCMは新聞や雑誌でとり上げられることも多く、その関心の高さがうかがえるが、その割には、実際に企業内または企業間でSCMによる改革が成功したという話を聞くことが少ないように思われる。本格的にSCMに取り組もうとしても、その効果がなかなか出ていないというのが現状である。なぜSCMは、実践の段階でうまく進まないのか、またどうすればSCMを成功させることができるのであろうか。
ハイテク業界、とくにコンピュータ・半導体産業を中心にその取り組みが始まった日本のSCMは、企業によってその中身に大きな違いがある。SCMといっても単にITを利用して情報のやり取りを効率化しているだけで、企業内における部門間の情報共有に過ぎない場合もある。企業間にまたがる取り組みを行っている場合でも、日本の複雑な流通構造のために、メーカーと部品メーカーとの間、メーカーと卸売との間、卸売と小売との間というように、部分最適にしかなっていないことが多い。そのために、サプライチェーンの最適化が実現されていることは少ない。
たしかに、これまで部門間、企業間で情報共有ができていなかった場合には、ITの導入によって一定の業務効率化が実現され、ある意味で成功したと言えるかもしれない。しかし、SCMは単にITによる管理対象を企業内からサプライチェーンへと広げただけのものではなく、またSCMパッケージを導入することでもない。当初、SCM支援ツールや需要予測ソフトといったサプライチェーン計画系ツールを導入し、それがSCMであると安易に理解されることもあった。しかし、需要予測をベースとしてサプライチェーン計画を立てる「計画系」の機能はSCMの一部に過ぎない。むしろこれらの計画を参照しつつ、商品開発から販売に至る「実行系」の一連の仕組みをどのように統合し改革するかが重要であり、このことがSCMの成否を左右すると言える。
SCMを成功させるために
SCMを成功させるためには、これまで商品開発・調達・生産・物流・販売などの分野ごとに導入してきた、生産管理・販売管理といった個別の実行系情報システムをすべて統合し、サプライチェーンで一連の処理ができるようにすることが必要である。
NRI(野村総合研究所)は小売業に関する多くのシステム開発を行ってきた。そのなかで、SCMについては以下のような大手小売業の成功事例をあげることができる。
この事例では、メーカーと共同開発を行った自社ブランド商品を中心に、メーカー・卸売(在庫拠点)・小売の三者間で、店舗の販売数量や流通在庫数量などの情報を共有することができ、その情報に基づいて生産計画や在庫計画の立案を行う計画系のシステムが導入されている。
これによって、三者それぞれに以下のようなメリットが生まれてくる。
- 小売:自社ブランド商品の拡大による他の小売との差別化
- 卸売(在庫拠点):過剰在庫・欠品のない在庫計画(適正在庫の実現)
- メーカー:適正な原材料・資材調達および安定した計画生産
また、実行系システムとして卸売に対して専用システムが提供されている。卸売がメーカーへ発注する数量は、仮説に基づいて計画された数量と突き合わされて実際の発注がなされ、その結果を検証するようになっている。これによってSCMの目的であるサプライチェーンの最適化が可能になる。
SCMからCPFRへ
この事例では、情報共有のための仕組みと、取引を実行する仕組みをあわせもち、これを車の両輪としてメーカー・卸売との共同の取り組みを行っている。すなわち、関連企業を単なる取引相手と位置付けるのではなく、各々の役割分担を明確にし、その役割を互いに活用する仕組みをもつことで、協働・協力的な取り組みを実現しているのである。
このように「個々の取り引き」を「共同の取り組み」へと変え、SCMをさらに次のステップであるCPFRへと進める仕組みと実践が、今後の流通業界が進むべき方向である。
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[服部義貴,野村総合研究所]
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