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2004/05/10 00:00 更新
製品開発のプロジェクトマネジメント
第6回 DSMから読み取るプロセス改善策
製品開発プロセスをDSM形式に記述することで、プロセス改善策の洞察が得られる。今回は、そのための着眼点をいくつか説明する。
DSMから読み取るプロセス改善方針
これまで、DSMにより業務プロセスを表現することで、プロセスに内在する繰り返し作業の可能性が可視化されることを見てきた。ここでポイントとなるのは、対角線よりも右上に記入されたX印である。なぜなら、右上のX印は、何らかの繰り返し作業が発生する可能性を示唆しているからである。
製品開発プロセスには、このような繰り返し作業がいくつも存在している場合が多い。したがって、製品開発プロセスの改善を図るには、繰り返し作業に着目してプロセスを分析し改善策を講じることが効果的だ。プロセス改善方針の1つとして、右上のX印を減らすことで繰り返し作業の数を削減する、という方法があげられる。そのためのDSM分析手法には「パーティショニング」「テアリング」があることを紹介した(第4回、第5回参照)。実はこの操作において、DSMが表記対象としているプロセスの意味内容は、いっさい考慮されていない。例えばパーティショニングでは、DSMの記号的な構造だけを分析して右上X印の数が少なくなるタスク順序を導き出している。
しかし実際の分析では、右上のX印が現実の製品開発におけるどのような作業内容を表しているのか考察することが重要である。なぜなら、繰り返し作業のすべてが「悪」ではないからだ(第3回参照)。繰り返し作業の意味内容を無視して単純に削減を図ることが、必ずしもプロセス改善につながるとは限らない。繰り返しが問題となるのは、本来は繰り返さなくても済んだはずなのに意図せず不本意ながら発生してしまうような場合である。したがって、DSMでプロセスを表現した後に右上X印が表現している“情報の流れ”に着目して、「その情報の流れが発生するのはなぜか?」「どのくらいの頻度で発生しているのか?」「それによる影響はどの程度深刻か?」などについて調査や考察を進め、改善策を検討することが重要になってくる。すなわち、右上X印が「計画的な繰り返し」または「計画外の繰り返し」のどちらを表しているのかを見極め、「計画的な繰り返し」は効率化を図り、「計画外の繰り返し」は回避するための方策を検討するのである。
計画外の繰り返しを回避する方策その1
DSMに現れた右上X印は、下流工程のタスクが生み出す情報が上流工程のタスクに影響を与えることを意味する。別の見方をすると、最初に上流工程のタスクを実施する際に「下流工程ではこうなるはず」という「仮定」を置いていることに等しい。生産プロセスと比較すると、製品開発プロセスではこの「仮定」が非常に多く存在する。「仮定」を誤ると、下流工程のタスクを実施した後に再び上流のタスクをやり直すことになり、大きな手戻りが発生する。このような「計画外の繰り返し」は、極力排除しなければならない。
そのための具体的な方策としては、試作評価やコンピュータシミュレーションなどのタスクをプロセスに追加することがあげられる。下流工程で確定される情報の事前予測精度を向上させることで、「仮定」が間違う確率を極力減らすのだ。例えば3Dデータを活用した組立性検証やCAEによる性能評価などがさかんに行われている。これらは、製品の実物が出来上がるよりも前に十分な評価検証を行うことで「仮定」の精度を高めて、製品が出来上がった後に図面を修正するような「計画外の繰り返し」を回避するための効果的な方策であるといえる。
計画外の繰り返しを回避する方策その2
計画外の繰り返しを回避するもう一つの方策として、デザインレビュー(DR)により仮定の妥当性を評価する、という方法が挙げられる。これは、フェーズという概念との関係が深い。しばしば製品開発プロセスはフェーズに分けられ、段階的に進められる。各フェーズでは到達すべき設計完成度の基準が定められており、DRでは設計案がその基準をクリアしているか評価し、フェーズ移行の可否が審議される。DRをクリアし次のフェーズに移ったにもかかわらず、再び前フェーズのタスクをやり直すということは、製品開発期間への影響が大きい問題であり、できるだけ回避しなければならない。
DSMでは、この問題は「フェーズにまたがる手戻り」として現れる。図1で説明してみよう。この図は「構想設計」と「詳細設計」という2つのフェーズで構成されるプロセスをDSMで表記した例だ。この図の中で「フェーズにまたがる手戻り」は、対角線の右上に書かれたX印のうち、太線の囲みの外に書かれた印が表している。(一方、太線の囲みの中にあるものは「計画的な繰り返し」であることが多い。)
このような場合はDRが適切に機能を果たしていない場合が多い。DRが「仮定」の中身を十分に評価するよう運営方法を改善することが有効である。「仮定」が多く、その管理がずさんなプロセスは、失敗するリスクが高いプロセスであるといえる。
図1:DSMから読み取るプロセス改善方針
計画的な繰り返しの効率化を図る
よほど簡単な製品開発でない限り、対角線より右上にある印をすべてなくすことは不可能である。したがって、タスク同士の連携作業も必ずといってよいほど発生する。連携作業は作業の繰り返しを伴うが、これは「計画的な繰り返し」であるといえる。計画外の繰り返しは回避すべきだが、計画的な繰り返しは効率化を図ることが重要だ。
連携作業を効率化する方策としては、連携作業のブロックを小さく分割することが有効だ。DSMで表現した時に、ブロック内に印が少なく(連携が疎であり)、かつサイズの大きなブロックが現れることがある。大きなブロックは、たとえそれが「計画した反復」であっても、収束するまでに時間がかかるなどの弊害が出てくる。チーム分けやタスク分けの見直しをしてブロックを小さく分割することで、意思決定の迅速化を図ることができる。
さて、今回は実際の製品開発プロセスを記述したDSMから考察できるプロセス改善方針について説明した。次回は、そもそもそのようなDSMをどのように作ればよいのか、について説明する。
関連リンク
米マサチューセッツ工科大学(MIT)
Problematics
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第5回:相互依存的なタスクはどこから着手すればよいか
第4回:プロセスの改善を行うパーティショニング
第3回 DSMの読み取り方
第2回:DSMによる業務プロセスの記述
第1回:従来の方法による業務プロセスの記述
連載開始にあたって
※iTiDコンサルティング
2001年、電通国際情報サービスと米ITIの合弁会社として設立。 両社の特長を受け継ぎ、「製品開発の“品質”にフォーカスをあて、その抜本的な改革を支援する」ことを事業コンセプトに、わが国初の開発生産性定量指標『iTiD INDEX』の開発や独自の『ワークストリーム』の導入など、独創的な手法で製品開発プロセスの抜本的な改革を支援している。
水上博之
電通国際情報サービスでCAD/CAM/CAEシステムの導入支援などに従事した後、2001年より現職。主にメカニカルエンジニアリング領域における設計業務改革のコンサルティング活動に携わっている。
[水上博之,iTiDコンサルティング]
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