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メッセージ形式化によるシステム運用自動化の可能性ITソリューションフロンティア:技術

» 2004年07月30日 03時41分 公開
[田中智,野村総合研究所]

大規模システムの監視

 システム監視のおもな仕事は、ハードウェアやソフトウェアのシステム構成要素から発せられるエラーメッセージの監視である。ところが、システム構成要素のインテリジェント化などにより、エラーメッセージは膨大な数にのぼっており、その数はますます増大する傾向にある(ある巨大システムで表示されるエラーメッセージ数は週に5 万件を超えるという)。ただし、エラーメッセージが直接的にシステムサービスの停止を意味するわけではない。エラーメッセージによって報告される局所的なエラーが、システム全体で適切にコントロールされていればサービス停止は回避される。問題は、膨大なエラーメッセージのなかから、サービス停止の可能性のあるメッセージをいかに見分けるかということである。

 エラーメッセージを監視しているのはコンピュータルームにいるオペレーターである。オペレーターは「指図書」を参照しながら、そのエラーメッセージの重大性を見分ける。エラーメッセージの監視では、サービス停止につながるおそれのあるサインは、細大漏らさずとらえなければならない。しかし、それほど重大でないメッセージに対して、重大さが判別できないために労力を注ぎ込んでいては、監視の負荷が大きすぎる。そこで、合理的な労力でシステム監視が行えるような適切な指図書を作るか、あるいはメッセージ監視を自動化することが望まれる。

自動化には形式化が必要

 メッセージ監視を自動化する際に問題となるのが、現状ではエラーメッセージがまったく標準化されていないことである。現在のシステムでは、さまざまなベンダーのさまざまな製品が組み合わされて使われていることが多く、製造元や製品が異なれば、システム構成要素を指し示す名称もその状態表現も千差万別である。また、それらの表現が人間には理解できても、表現の“意味”を問題にしないコンピュータには理解することができない。それはコンピュータが、「京都」をキーワードに検索して「東京都」を結果出力するのと同じである。

 人間と同じように、コンピュータにおいても自然言語による意味の理解を目指す人工知能の実現はまだまだ先のことである。そこで、意味処理をもっと短期的に実現するための方法の開発が広く期待されている。その解決方法は、自然言語ではなく、コンピュータで扱えるあいまいさのない形式言語で情報を表現することである。これは、Webページにメタデータ(内容について記述したデータ)をもたせ、それに基づいてコンピュータに情報の自動処理を行わせるという「セマンティックWeb」の考え方にも通じる。情報生成の段階でコスト高になっても、その後の情報活用で自動化・高度化が達成されれば、全体的には有利である。

システム運用監視情報の形式化

 

 システム運用における形式化の代表的なものに、米国の非営利団体DMTF(Distributed Management Task Force)が策定した形式言語体系であるCIM(Common Information model)がある。CIMは、1997年4月にバージョン1が発表されて以来、2004年1月にはバージョン2.8がリリースされている。

 システム運用監視で扱われる意味情報の形式化には、システム構成要素の適切な詳細さ、システム構成要素間の相互関係の記述、技術の進歩にも耐えられる抽象性が求められる(詳細については「CIM知識ベースを活用したシステム運用管理のインテリジェント化」を参照)。

エラーメッセージ監視の自動化

 CIMでは、エラーメッセージはたとえば図1のように標準化され、形式化される。標準化・形式化されたエラーメッセージであれば自動処理が可能である。逆に言えば、情報の形式化なくして自動処理は望めない。DMTFのCIMに基づいて、各種ベンダーや非営利団体では、ネットワークストレージ、クラスタコンピューティング、グリッドコンピューティングにおける統合的なシステム監視を実現しつつある。

図1

 CIMは着実に普及しているが、まだ未完成の部分も多く、また現在のところベンダー主導の傾向が強い。これにシステムインテグレーターの視点やノウハウも加えることで、近い将来、エラーメッセージ監視の自動化が実現されるであろう。

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