ITmedia NEWS >
コラム
» 2004年08月09日 00時00分 公開

密度依存理論e-biz経営学(1/2 ページ)

今回から3回にかけて、新しい組織理論の流れの1つでもある「競争」に関する理論をこのコラムで紹介していく。今回は、Michael Hannan、John Freeman、Glenn R. Carrollといった研究者達が築き上げた組織生態学(population ecology)と呼ばれる学派が展開する密度依存理論(density dependence theory)という理論を紹介する。

[三橋平,筑波大学]

 初めてお会いする方に、私は組織論の研究をやっております、と申し上げると、かなり多くの方々が、「組織論とは、どういう風に組織内部をデザインすべきなのか」を考える研究領域だととらえていることが分ります。例えば、「私の会社では生産部門と営業部門の意思疎通がとれておらず、それが結局在庫を引き起こしてしまい、在庫の蔵が何件も建っちゃいましたよ」とか、「飲みに行った時だけは部下の人と意思疎通ができているけども、仕事になると、トップの私の意思なんぞ、誰も分ってくれない、これは人間的な問題じゃなくて、組織的な問題ですよ」などの貴重なお話を伺えるチャンスが多々あるのは、おそらく、組織の研究をしている人はこういうことに興味があるんだろう、というなんとなくのフィーリングがあるからだと思います。

 組織理論の発展には、1970年代半ばに大きな転換点があり、それ以前の組織内部構造だけに着目していたクローズド・システムの考えから、外部環境と組織の関係に焦点を当てたオープン・システムの考え方に移行し、現在の組織理論は組織内部のデザインを越えたものへと発展しています。特に、組織環境が様々なアプローチから分析され、単に組織が環境から受ける影響だけではなく、如何に組織が環境をコントロールして自らの成功にむすびつけるのか、についても多くのことが明らかになってきました。

 もう1つの組織研究における過去30年間の発展の特徴として、研究拠点がそれまでの社会学部からビジネス・スクールに移行したことが挙げられます(米国だけの話になってしまいますが)。これにより、従来の、組織の中のコントロールや官僚制、分業とコーディネーションという、システム構築と社会形成の機能主義的な観点から、組織戦略やパフォーマンス、組織間競争といった問題に研究者の関心も一気に移ることになりました。これらの近年の変化によって、組織研究の持つ本来の言葉が持つイメージだけではとても説明がつかない領域までもが最近の研究対象となってきており、経営学における戦略論や経済学の産業組織論などとの隔たりも益々なくなりつつあります。

 さて、今回から3回にかけて、この新しい組織理論の流れの1つでもある「競争」に関する理論をこのコラムで紹介していこうと思っています。今回は、Michael HannanJohn FreemanGlenn R. Carrollといった研究者達が築き上げた組織生態学(population ecology)と呼ばれる学派が展開する密度依存理論(density dependence theory)という理論を紹介します。

 社会科学の考えのいくつかは、先述のオープン・システム・アプローチのように、生物学や進化論からそのヒントを得ているものが多々あります。組織生態学はダーウィンやキャンベルの進化論からヒントを得ており、社会におけるある種の組織群(組織生態学ではポピュレーションと呼んでいますが、便宜的に組織群と訳します)がどのように発生し、そして淘汰されていくのかを、その分析の対象としています。

 組織群とは、存続のために必要な資源が似ている組織のグループを指しており、具体的には、労働組合、ビール製造会社、半導体メーカー、自動車会社、新聞社といった組織の集団が挙げられます。組織生態学の研究者たちは、時には1800年代のデータまで遡り、これらの様々な組織群の歴史的発展のプロセスを調べたところ、驚いたことに下図のような同一パターンがいかなる組織群においても存在することが明らかになりました(図1参照)

図1 図1:時間と密度の関係

 この図のX軸は、時間経過、Y軸は、密度(デンシティ)です。密度とは、その組織群に属する組織の数の合計を意味します。例えば、日本の信用金庫という組織群を例にとると、1990年時点では、全部で454の金庫があり、2004年では308に減っていますが、この454、308というのが1990年、2004年での密度となります。この図が示唆する組織郡の形成に関する共通の傾向とは、(1)組織群の密度は、ある一定のレベルまでは時間とともに上昇していくが、(2)ある一定のレベルからは次第に下降していき、(3)最終的にはいわゆる寡占状態となり均衡が発生する、というものです。労働組合の場合でも、新聞社の場合でも、それらの組織群の歴史が始まってからしばらくの間は組織の数が増えていくのですが、徐々に増加スピードが落ち、そして、今度は組織の数が減っていく、というわけです。密度依存理論では、なぜこのような共通の傾向が、いかなる組織群でも発生するのかを説明しています。

 この理論では、組織群の発声と形成には2つの異なる力が働いている、と仮定しています。1つ目の力は、組織郡が持つ社会における市民権、社会的信用、社会からの認知度、許容度を意味するレジティマシー(legitimacy)です。ある組織群が歴史的形成の初期から市民権を得ていることは、例外的にしかありません。多くの場合、組織群の形成過程の初期においては、その組織群に対する社会的信用が低く、認知度もなく、したがって、運転資金や人材などの資源獲得に苦労することになります。

 数年前までは、ベンチャー・キャピタルという組織群は、その認知度、社会における理解度が低く、社会に根付いた市民権が確立されているととても言えない状態であったことは多くの皆さんがご存知だと思います。以前、「家族経営の会社の社長さんに株の仕組みやら株式公開のプロセス、その中でのベンチャー・キャピタルの役割を延々と説明しなければならなかった、そして、一生懸命説明しては、やっぱりうさんくさいと言われて断られ続けた」というベンチャー・キャピタリストの方のお話を伺ったことがありますが、このように、組織群が形成過程初期から低い信用度に苦しむことは多々あります(今でもこういう啓蒙的なページが存在するのはそういう理由なわけです)。

 この信用度が高くなればあるほど、よりその組織群全体にお金やヒト、取引先を通じた物的資源などの資源が集まるようになってきます。そして、この信用度は、組織群内の密度、つまり組織群内の組織の数が多くなればなるほど高くなっていくと考えられています。つまり、先ほどの例をとれば、世の中により多くのベンチャー・キャピタルが生まれれば、より信用度が増し、その結果、より多くのベンチャー・キャピタルが設立され、さらに信用度が増す、という、密度と社会的信用は正の関係にあると考えられています。

 一方、もう1つの力とは、競争です。競争は、2つ以上の社会的個体が共通の、もしくは似通った資源の獲得にその存続を依存しているときに発生します。あまりいい例ではありませんが、あなたと恋敵が競争関係にあるのは、2人ともその人生の明暗が1人の異性の心をつかむことに依存しているからです。組織群の場合、社会が提供できる資源の絶対量には限界があると考えられるため、密度がより高くなればなるほど競争の度合いが高くなっていきます。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.