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密度依存理論e-biz経営学(2/2 ページ)

» 2004年08月09日 00時00分 公開
[三橋平,筑波大学]
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 密度依存理論では、この2つの力を用いて図1のような組織群の形成・発展過程のメカニズムを説明しています。すなわち、(1)密度が低いときは、組織が増えることによって、その組織群に対する社会的信用・認知が高まり、新たな組織の参入、設立が増えていく(社会的信用の強さ>競争)、(2)しかしながら、ある一定のレベルの密度を越えると(これをキャリング・キャパシティー、許容可能点と呼びます)、社会的信用の正の影響よりも競争による負の影響が大きくなり、競争が組織群内の密度低減をもたらしていく(社会的信用の強さ<競争)、と解説するのです(図2参照)。

図2 図2:密度依存理論

 この理論から派生する考え方には2つのものがあります。1つは、機会の窓(オポチュニティー・ウィンドウ)です。これは、新しく起業をする、新規に別のマーケットに参入するのであれば、ある一定の時間内が好ましい、という考えです。密度依存理論に基づけば、あまりにも密度が低い状態でその組織群に入った場合には、社会的信用を高めるためのコストを負担する必要が発生する一方で、あまりにも遅いタイミングで入ってしまった場合には、既に淘汰のための競争が起こっているかもしれないため、新規参入のタイミングは極めて限定されると考えられます。

 もう1つの含蓄は、産業・市場形成の観点から考えると、新しい産業を興すには、単に補助金や税制面の優遇、施設面での補助だけではなく、いかにその組織群の社会的信用を高めるのか、というのが重要であることがわかります。例えば、産業団体の設立や、情報公開による社会に対する教育を積極的に行っていくことによって、社会的信用が高まり、しいては新規参入の数も増え、産業として成長していくのではないかということが分ります。

 このように密度依存理論は、世界の歴史上における様々な組織群の形成過程を分析するなかで、一定の法則を見つけ出し、そしてその理論化に成功したのですが、実は後年、大きな欠点があることが指摘されたのです。これについては次回紹介させていただくとして、もしその欠点にお気づきの方がいらしたらば、是非こちらからご連絡ください。

追記:

実は、先日書きました「業績低迷の責任とスケープゴート」について、読者の方々からフィードバックを頂戴いたしました。どうもありがとうございました。断りもなく掲載してしまいますが、問題があるようでしたらば編集部までご連絡していだけると幸甚です。

 私は米国資本系企業数社と日本企業数者で働いた経験があるのですが、記事にあるような状態というのは、どちらかというと日常茶飯事です。しかし、日本での責任と米国的な責任とは理解のされ方がずいぶんと違うように感じます。米国では契約に基づく権限と利益への対象物として責任があるように思えるのですが、どうも日本の「責任」という言葉は実感のない靄のような印象があります。

 私の考えですが、これは米国と日本の違い、というよりも、職務記述書(job description)があるシステムと、ないシステムの違いではないかと思います。多くのアメリカ企業は、ヘイ・システムに代表されるジョブの概念に基づいて組織設計がされています。このようなシステムのもとでは、自然、何が仕事の範囲として含まれており、誰が何をするべきなのか、は少なくとも形式的には明示化されます。

 一方、多くの日本企業は、職能資格制度を中心とした、潜在的に何ができるのかという能力を中心にした組織設計であるために、個人に何が任されているのかは少なくとも相対的にぼんやりとした印象が生まれるのではないでしょうか。1つの仮説ですが、近年のMBO(目標管理制度)の導入にともなって、個々の仕事の明確化というのが図られているとも聞いておりますが、これによって、日本の組織の中でも個人の責任に対する考え方、責任の取り方自体にも変化があったのではないかと思います。と個人的には思うのですが、最近の責任事情にお詳しい方がいらしたらば、是非アップデートしていただきたいと思います。

 単なる「自己保身」と片付けられることの多いトップの行動パターンについて、その後の業績を含めた経営的な視野から検証しようという試みについてです。企業に限らず、「組織」という人の集まりがある限り、権限や発言力を利用したある種政治的な自己防衛は非常に一般的なものであると思います。こうした上層部の姿勢が、組織に対してどのような影響(=業績)を招くのか、統計的な傾向が存在するのかどうかは、大変気になるところです。ただ、こうした情報は隠されることが多いと思いますので、情報収集に難がありそうですが…。

 上層部の姿勢が業績に影響を及ぼすのか、そして、それはどのようなメカニズムでどのような状況のときにもっともそうなるのか、という研究は、実は私が手がけているプロジェクトの1つです。社内の政治事情やパワー構造は、必ずしもアンケート調査を通じた本人の評価に頼らなくても、例えば勤続年数や、昇進年度などの公開されているデータの分析によって明らかになることがすでに10年ほど前にアメリカの研究で立証されています。例えば、自分が社長になってから昇進させた部下の数をカウントすれば、より自分のパワー(子分)は増えている、と考えられますよね。また、学歴や過去にどのような職種についていたのかでも判断できるとされています。

 現在、1990年から2004年までの信用金庫のトップ・マネジメント・データを日本金融名鑑という年鑑書を使って収集しています。興味深いことに、信用金庫は過去10年で4分の1以上の会社が消滅するという業界だけに、企業淘汰のデータとしてはかなりリッチなものであることには間違いありません。このデータを用いて、社内政治事情と組織の衰退は関係するのか、という大問題にチャレンジしてみようと考えています。すでに何年分かのデータは入力済みですが、データ1年分で約5000人前後のトップ・マネージャーのデータを入力しなければいけないため、データ収集だけで何年かかるかという気の長いプロジェクトになりそうです。もし分析に際してヒントになりそうなお話、こういうことも調べてみたらば面白いのではないか、などありましたらば、是非教えていただければと思います。

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