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中国市場進出で重要な日本企業の現地化ITソリューションフロンティア:海外便り

» 2004年08月17日 00時00分 公開
[野中利明,野村総合研究所]

価格競争力の低下と国内市場への進出

 かつて日本企業が中国へ進出するメリットのひとつに、豊富な労働力を安価に確保することによる価格競争力の強化があった。しかしながら、多くの日本企業が中国に進出し、中国で生産することはもはや日本企業にとって当たり前という状況となっているなかで、安価に労働力を確保することだけでは、価格競争力を維持できなくなってきている。

 さらに、ここ数年来の中国国内市場の拡大を背景に、中国を輸出製品の生産基地とのみ位置付けるのでなく、中国国内での販売を目的とする企業が増えてきている。

 しかしこのような場合には、中国の現地企業との競争に晒されるケースも少なくない。そうした場合には、価格競争力の面で厳しくなるばかりでなく、ほとんどの幹部を日本人が占めるような企業では、中国市場の特性を理解した対応などに限界が出てくるものと思われる。

競合は外資系企業だけでなく現地企業も

 中国国内市場で製品を販売する場合、競合の関係にあるのはこれまで欧米、日本ならびに台湾、韓国などの外資系企業が中心であった。しかし現在では、中国の現地企業の存在が非常に大きなものとなっている。たとえば家電業界では、いわゆる白物家電はもちろん、PC、携帯電話、DVDプレーヤーなどの分野でも、中国企業が非常に大きなシェアを占めるようになってきている。また乗用車も、中国の企業が日系企業以上に販売シェアを伸ばしてきている。

企業の“現地化”の必要性

 中国国内市場をターゲットとした販売事業を行う際に、現地企業を含めた競合関係のなかで成功するためには、人材の登用を中心とした企業の“現地化”をいかに進めるかが重要となろう。中国市場を理解することが重要であるのはもちろんであるが、たとえば政府当局との関係維持など、中国特有の対応が求められることも事実だからである。このような場合の対応は日本人ではなかなか難しい面がある。

 これまで多くの日本企業は幹部人材の現地化に対して消極的であった。これを改めない限り、今後、中国市場で成功を収めるのは容易ではないであろう。

 これは製造業に限らずソフトウェア産業でも同様である。ソフトウェア開発を中国で行う場合、これまではコーディングなどの下流工程部分のみを中国のIT人材に任せるケースが多い。しかし、下流工程だけでなく開発にも現地の人材を積極的に登用するようになれば、品質面でも大きな差が出てくるものとみられる。現在、中国ではソフトウエア工学関連の学部学科を設置する大学は約400あり、学生数は40万人とも言われている。こうした豊富な人材のなかから、すでに千人規模の開発人材を確保している日系のSI(システムインテグレーション)企業も出てきている。

積極的に現地化を進める欧米企業との差

 一般に日本企業の多くが、これまで中国を生産拠点として位置付けていたのに対して、中国に進出している欧米企業は、早くから販売力の強化を目的として、日本企業とは対照的に現地化を積極的に進めてきた。そこでは経営層を含めた幹部への現地人材の積極的な登用と権限委譲を進めているケースが少なくない。現地の幹部候補人材を確保するため、主要な大学との共同研究や、寄付、冠講座の実施など戦略的な取り組みも行っている。

 また、生産機能だけでなく、現地の技術人材を登用した研究開発を早い段階から中国で進めているケースも少なくない。これは基礎技術の研究というよりは、むしろ中国市場に合った商品開発を行うためのものという意味合いが強い。中国市場向けの製品開発は、現地の技術人材が行うべきだという考えによるものである。最近でこそ、日本企業にもこうした動きが出てきてはいるものの、欧米企業に比べればまだごく一部に過ぎない。

 優秀な人材を確保したとしても、こうした人材にいかに権限を与え、登用していくかということが問題となる。ここでも欧米企業と日本企業の差はやはり歴然としている。欧米企業の場合には、経営層を含めて現地人材を積極的に登用しているケースが少なくないが、日本企業の場合には管理職クラスまでというケースがまだまだ多い。

日本企業の現地化に求められる本社のサポート

 現地化において欧米企業に大きく遅れをとっている日本企業であるが、日本企業ゆえの困難さもある。そのひとつが社内言語の問題であろう。欧米企業ではほとんどの場合、海外拠点との共通言語が英語であるが、日本企業の場合、海外拠点の言語を日本語で一本化することは容易ではない。

 こうした場合、たとえば現地の人材が本社と英語や中国語などで、直接的に円滑なコミュニケーションをとることができるような環境づくりが重要となる。海外事業の現地化は、海外拠点が単独で進められるものではなく、本社の理解とサポート体制があってはじめて可能となるものである。

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