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コラム
» 2004年10月22日 00時00分 公開

経営者のIT説明責任に必要な視点(前編)特集:IT投資マネジメントの視点

今日、システムが止まったら事業そのものが止まってしまうほど、企業活動のあらゆる分野にITが浸透している。また、システム統合時の障害など、ITに関わる失敗が社会問題化することも少なくない。いまや、IT活用の妥当性に関する対外的な説明が必要な時代となっている。本稿では、経営者が適切にIT説明責任を果たすために必要な視点について提言する。

[淀川高喜,野村総合研究所]

経営者のIT説明責任とIT理解の実際

 ITが企業活動に与える影響力がますます大きくなるとともに、年々増加を続けるIT 投資は経営者にとって無視できない水準になってきた。また企業のIT活用の失敗による影響が、企業内にとどまらず社会に対しても大きくなっている。したがって、経営者は次の3 点について自ら方針を示し、適切に実態を把握し、利害関係者に説明できることが、IT説明責任を果たすことになるであろう。

(1)有効性:ITの効用を活かした経営ができているか。ITは役に立っているか。

(2)効率性:IT資産(ヒト・モノ・カネ)の運用は適切に行われているか。無駄はないか。

(3)リスク:ビジネスやIT自体がもつ不確実性をどう予見し対処しているか。危なくないか。

 経営者がこの3 点についてどの程度の認識をもっているかについて、野村総合研究所(NRI)では2003年11月に上場企業を対象にアンケートを実施した(図1参照)。

図1

 ITの有効性については、多くの経営者はIT投資の決定にあたって起案内容の説明は受けているようである。しかし、何に投資すべきかを自ら評価し指示しているという段階にはない。ITコストの効率性については、総額でいくらかかっているかは気にしているが、その内訳や妥当性を評価できる段階にまでは至っていない。また、ITに関わるさまざまなリスクについてはかなり気にしている様子である。このアンケートを含めて全体として言えることは、経営者のITに関する関心は総じて高いが、これは守りを固める必要からで、ITを経営資産として有効に使い切るという攻めの面でのITに関する理解は、大きく進んではいないということである。

ITの有効性(COOの説明責任)

 IT説明責任のなかで最も重要なのが、企業価値向上のためにどのようにITの効用を活かしているのかという有効性についてである。これは資産効率性と収益性の2 つの面から検証する必要があり、それぞれ短期的指標と長期的指標の活用が考えられる。

 ITは、情報を他の資産(ヒト・モノ・カネ)と置き換える技術と言えるので、ヒト・モノ・カネの各資産効率が、短期的にあるいは長期的にどの程度向上したかが、その企業のIT活用の成果指標となる。

(1)短期的指標:ITによってヒトや設備の稼動率を高め、在庫回転率を高め、資金効率を高めているか。

(2)長期的指標:ITによって事業や設備の投資回収期間を短縮し、人材のスキル転換スピードを高めているか。

 収益性の面では、IT活用によってビジネスのスピードが向上し、その結果、顧客に対して生み出す価値が向上し、それが利益につながるといった、間接的な効果の創出過程をたどることになる。

(1)短期的指標:ITによって業務プロセスの定常運行スピードを加速し、顧客への商品供給やサービス提供のQ C D(品質・コスト・納期)を向上させているか。

(2)長期的指標:ITによって変革サイクルを加速し、事業開発、組織変革、商品開発などの変革プロジェクトの実行力を高めているか。

 このように、ITの有効活用によって事業の資産効率性や収益性を高めることは、COO(最高執行責任者)の責任そのものと言えよう。

IT投資の効率性管理(CFOの説明責任)

 ITを活用して効果を刈り取るのが各事業のCOOの責任である一方で、全社的なカネの管理の一環としてIT投資の効率性を管理するというCFO(最高財務責任者)の責任も重要である。

 たとえば、他社と同じような機能や効果をもつシステムを作る場合であっても、カネの使い方が適切でなければ金額は何倍も違う。設備投資や研究開発投資と同様に、ITについても次のような観点から、効率的な投資管理を行う必要がある。

(1)IT投資配分や投資対象の選択は適切か。限られた投資総額のなかで本当にかけるべきものに重点的に投資が割り当てられているか。

(2)IT投資案件の要件は適切か。曖昧な業務要求になっていないか。過剰なサービス水準を要求していないか。

(3)資産を保有するか外部サービスを利用するかの選択は適切か。自社資産として保有しても投資を回収できない可能性があれば、保有よりも利用が定石である。

(4)IT資産やサービスの調達方法は適切か。競争原理が働く環境のもとで、要件に適合する製品やサービスを、最適な調達先から購入しているか。

(5)ビジネスとIT資産のライフサイクルは適合しているか。息の長いビジネスに対して、初期投資額は低いけれども寿命の短いIT製品を適用してしまうと、すぐに設備更改が必要になり、結果的にライフサイクルコストは高くつく。

(6)IT投資ポートフォリオとして全体最適化されているか。経営戦略上の優先順位とIT投資配分の整合性はとれているか。重複投資や偏った投資になっていないか。投資回収見込みやシステム構築費用見積もりのブレは案件全体として許容可能な範囲に抑えられているか。

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