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コラム
» 2005年03月18日 10時35分 公開

アルゴリズムトレードの活況と米国の制度的背景ITソリューションフロンティア:海外便り

最近、米国証券会社はアルゴリズムトレードと呼ばれるサービスを競って開始している。アルゴリズムトレードが米国において活況を呈している背景のひとつとして、ECN(Electronic Communication Network)をはじめとする米国株式市場独特の特徴があげられる。本稿では、日本との比較を交えながら、これらの特徴を説明する。

[上坪耕太,野村総合研究所]

特定のロジックによる自動化サービス

 アルゴリズムトレードとは、「証券会社が顧客に対して、特定のロジック(アルゴリズム)に従って動作するトレーディングシステムを提供するサービス」と概括できる。証券会社にとって、他社と差別化を図る最大のポイントは、「特定のロジック」が、いかに優れたものであるかにかかっている。

 現状、アルゴリズムトレードは、大量の情報を短時間で処理し、単純作業を正確に繰り返せるという、コンピュータの特性を活かせる局面で用いられている。マーケットインパクトを抑える目的で、大口の注文を複数の小口注文に分割し、一日を通じて執行するタイプの注文は、その典型的な適用事例である。

 米国株式市場には、コンピュータによる自動化を前面に出したサービスが受け入れられやすい、独自の特徴が存在する。以下では、これらに関して、日本との比較を交えつつ説明したい。

ECNの存在による発注先の分散

 米国の場合、私設の電子取引所と言うべきECNがあり、米国株式市場で重要な役割を果たしている。日本では東証、大証、…といった複数の取引所に上場している銘柄であっても、東証のような主市場に取引が集中する傾向があるため、それ以外の取引所を使用するメリットは少ない。

 しかし、米国では、取引が主市場とECNに分散されているため、特定の局面で、どの発注先を選択するかが、証券会社の重要なノウハウのひとつになっている。すなわち、流動性の高い銘柄の場合、主市場および4つ前後のECNが取引を行う選択肢となり得、「板」が5つ存在しているわけである。

 このため、利用可能なデータおよび意思決定のプロセスが、日本よりも複雑になってくる。また、さらに問題を複雑にする要素として、ECNがサポートする特殊な注文種別の存在があげられる。

ECNがサポートする特殊な注文種別

 米国では、取引所およびECN間の競争が激しいため、後発のECNは、投資家のニーズに応える機能を自社システムに取り込むことに積極的である。

 表1に掲げた注文種別は、細かい仕様はそれぞれ異なるものの、大手のECN各社によりサポートされているものである。後発のECNのなかには、既存の取引所がサポートしない特殊な注文種別への対応を行っているものも少なくない。

図1 (クリックすると拡大表示)

 表1の注文種別のうち、情報限定公開型の注文は、マーケットインパクトを抑える必要がある投資家に積極的に利用されている。このため、マーケットデータから得られる情報は、ECNのシステム内部における実際の注文状況を再現するのに十分ではない。「隠された注文」を加味したECN内部の注文状況は、その性質上、正確に特定することは不可能ということである。確認する方法があるとすれば、「隠された注文」に対等する注文を、実際に発注してみるしかない。

 そして、この「実際に注文してみるしかない」という点と「約定しない場合、即時取消注文(IOC)」の存在により、自動化された機械的な執行が有効となる。各ECNに対して、順番に、有利な値段でのIOC注文を、「ダメでもともと」的に発注していくことは、時間的な制約が少ない注文を執行する際には、有効な戦略となり得るからである。もちろん、このプロセスを人手を介して行うことも可能だが、現実問題として、この種の単純作業を人間がミスなく行うことは困難であり、自動化されることが望ましい作業の典型例と言える。

自身の戦略に即した最良のツール

 言うまでもなく、コンピュータによる自動化は万能ではない。現実のトレーディングにおいては、コンピュータが苦手とするさまざまな要素(特定の日時におけるマーケット全体の傾向、特定の銘柄に関する報道・イベント、マーケットデータの時差の問題など)が存在するため、個別的判断を要する分野と自動化が進んでいく分野とのすみ分けは、今後とも存在し続けると予想される。

 いずれにしても、投資家が求めているのは、先端技術を駆使した自動発注システムそのものではなく、自身の戦略に即した最良のトレーディングを実現するツールであることに注意する必要があろう。

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