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デジタル一眼レフ――ユーザーの裾野を広げるのはやはりキヤノンか?気紛れ映像論(1/3 ページ)

» 2004年02月03日 19時56分 公開
[長谷川裕行,ITmedia]

 気軽に撮れてしっかり絵作りできるはずの「キヤノンのEOS Kiss Digital」なのだが、ソフトのユーザーインタフェースが物足りない。これは、以前から写真雑誌などでさんざん指摘されてきたことである。

 で、その辺の事情を見ていると、メーカー各社がデジタル画像処理をどの方向へ引っ張っていきたいのか、何となくわかるようなわからないような……。

「エプソン論、キヤノン論」に共感

 本欄コラムでおなじみの本田雅一氏が、彼女(現在の奥さん)と一緒にわが家へやってきたのは、もう10年ほど昔のことである。ある書籍の企画会議(のはず)だったのだが、飲んで食って明け方までしゃべり、最後はザコ寝した(本田君、あの頃はお互い若かったなー)。

 当時、僕は登場したばかりのカラーインクジェットプリンタ(720dpi)で、写真画像の出力を試していた。Photoshopのバージョンは、確か“3”だったと思う。デジカメはまだ高価で手が出せず、フィルムスキャナでポジフィルムをたらたらと読み込んだりしていたものだ。

 本田氏のコラム「“究極のスキャナ”に見るエプソンのマニアックさ」を読んで、そんなことを思い出した僕なのだった。特に「私的、エプソン論、キヤノン論」の項は、非常に納得かつ共感できる分析だ。彼の言うとおり、キヤノン製品のユーザーインタフェースに対する思想を要約すると、「スキルのない人はこの程度の機能で十分。高機能を求めるなら、プロ向けの製品を買ってください」と、いうことになる。

 新技術が怒とうのごとく押し寄せ、メーカーもユーザーも右往左往のご時世だ。「あらゆるユーザーの希望に応えられる製品を作れ」なんて言う方が無茶である。よって、どこかで割り切らざるを得ない。その割り切り方によって、メーカーの思想が浮き上がってくる。

GT-X700は僕も欲しかった

 くだんのコラムで紹介されていた、エプソンのフラットベッドスキャナ「GT-X700」は確かにいい。僕は昨年GT-9800を買ったのでそれを使い続けているのだが、そうでなければGT-X700を購入していただろう。

 今、過去に銀塩フィルムで撮った画像をデジタル化する作業に追われている。35ミリだけではなく、ブローニーの中判(6×6など)も多いのだが、35ミリから中判までカバーするフィルムスキャナは、まだまだ高価でさすがに手が出せない。それで、35ミリから4×5(シノゴ)まで1台でまかなえる、透過原稿対応のフラットベッドは、僕にとって非常にありがたい機械なのだ。

 過去のフィルムは、そのほとんどがモノクロである。加えて僕の基本理念として、半切や全紙などの大伸ばしはしない。六切りから大四つ切りまでが、普通に鑑賞できるサイズだと考えている。だから、色の再現性や解像度より、スキャン速度を優先したいのだ。

「難しさ」を選べるエプソン

 だからと言って、(当たり前だが)色調の再現性がどうでもよいわけではない。色調――モノクロの場合はシャドウ〜ハイライトの階調――再現には、スキャナの基本性能もさることながら、制御ソフトの性能が大きく関わってくる。

 エプソン製スキャナに付属するEPSON Scanは、ユーザーのレベルや用途に応じて「全自動/ホーム/プロフェッショナル」の3つのモードに切り換えられるようになっている。トーンカーブを操作してフィルムの持つ微細な階調をデジタル化する作業では、プロフェッショナルモードが威力を発揮する。サンプル画像を低解像度で取り込むだけなら、全自動モードを使えばいい。

 自分のレベルや用途に応じてソフトの難しさを「選べる」のが、エプソン製品の良さである。一方、キヤノン製品に添付されるソフトのインタフェースは、最初から「そんな難しいこと、しなくていいですよ」というスタイルで統一されており、それゆえ、時に「ナメてんのかー!」と言いたくなることもある。しかし、大多数のホームユーザーにとっては、その方が親切だ。それがキヤノンの「割り切り方」なのだろう。

キヤノンのRAW現像は割り切りすぎ

 そんなキヤノンの割り切りは、デジタル一眼レフEOS Dシリーズに付属するRAWデータ現像ソフト「FileViewerUtility」でも顕著である。設定できる項目は少なく、例えば「色の濃さ」では「薄く/やや薄く/標準/やや濃く/濃く」、「コントラスト」では「弱く/やや弱く/標準/やや強く/強く」の中から選択するだけとなっている。まず、ここで僕などは「ナメてんのかー!」と思うわけだ。

 そして一項目選択するたびに画像のサンプリングをやり直すため、しばらく待たされる。その間、ユーザーは、プレビュー画像が再表示されるまでプログレッシブバーがたらたらと伸びる画面を見つめているだけ。キャンセルすらできない。この段階で「バカヤロー」と、つい怒鳴ってしまう。素人がVisualBasicで作っても、もうちょっとマシなものができそうに思えるのだ。

 RAW現像ソフトはあくまでおまけ。トーンカーブやヒストグラムによる微調整などは、市販ソフトを使ってくれ――という姿勢も分かるのだが、せめてもう少し機敏に動いて欲しい。いっそ何も設定せずリニアでTIFFに落とし、Photoshopで調整してやろうか……という気になってしまう(EOS 1Dに付属のPhotoshopプラグインを見れば、それがキヤノンの思想なのだと推察できる)。

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