以下の写真のようなシーンをJPEGとRAWで撮影し、ベンチの向かって左側の脚の部分を800倍に拡大したのが、さらにその下の2点だ。
撮影データ:2003年11月25日(13:51)、絞り優先AE(f=5.6, 1/60sec.)、露出補正なし、ISO 100、18-55mm専用レンズ(22.0mm)、3072x2048ピクセル、ホワイトバランス:太陽光、現像パラメータ:すべて標準、色空間:Adobe RGB
以下の2点の写真では、上がカメラ側で最高画質JPEG(Large-Fine)に設定して撮影したもの、その下にあるのがRAWで撮影して付属のFileViewerUtilityで生成した16ビットTIFFである。
脚の根本にあるコンクリートや周囲に生えている草のグラデーションを見れば……さすがにRAWから生成した16ビットTIFFの方が精細だとわかる。これはまあ、当たり前だ。とは言え脚の木製部分(拡大画像の中央上部)や脚の右側にある地面と草むらの描写では、両者に目立った差のないことも見て取れる。
もちろんわずかな差は出ているのだが、この違いは少なくともA3判以上に拡大してじっくりにらむように鑑賞――というか観察――しなければ判別できないレベルだ。2L〜A4判程度のプリントでは、最高画質のJPEGで十分鑑賞に堪えられる。DIGIC、恐るべし。
とは言うものの、本気でデジタル写真に取り組もうとしている人には、このクラスの手軽に扱える一眼レフでこそ「RAWで撮影して高画質画像を生成する作業」を体験していただきたい――などと、思ってしまうのである。
単に撮って伸ばしてでき上がり……ではなく、元データを壊すことなくトーンカーブを操作し、階調を整えて画像を作る作業を学ぶのに、EOS Kiss Digitalは最適なカメラではないかと思っている。ライバルのニコンがまだ手を出していない領域のカメラなのだ。そういったユーザーのことも考慮してもらえると、デジタル一眼レフの裾野はもっと広がるだろう。
EOS Kiss Digitalに対応したRAW現像ソフトでは、現在PhaseOne社製の“Capture One DSLR Rebel Edition”(C1 Rebel)が最も優秀だと思う(“DSLR”はデジタル一眼レフ――Digital Single Lens Reflexの略称。CaptureOne DSLRのサイトを参照)。
英語版のみで、Canon EOS Kiss Digitalだけにしか対応していないのだが(注1)、価格は49ドルと超リーズナブルである。メニューも設定項目もヘルプもすべて英語だが、作業が限られているため難しくはない(PhaseOne社の日本語サイトはこちら)。
(注1 EOS Kiss Digitalは、北米モデルとして“EOS Didital Rebel”の名称で米国とカナダで先行発売されていた。欧州、アジア、オセアニアでの名称は“EOS 300D”)
その上位製品にはEOS Kiss Digitalの他にEOS 1D、1Ds、ニコンのD1などに対応した“C1 pro.(“Capture One DSLR Professional”)”という599ドルの製品と、“C1 SE”という199ドルの製品がリリースされている。どちらもWindows版とMac版があるのだが、C1 Rebelは、残念なことにWindows版のみとなっている(注2)。
(注2 C1 pro.の旧バージョン(Kiss Digitalには対応していないver.1.2)の日本語マニュアルはメーカーのWebサイトから入手できる)
僕の知っている限りでは、このC1シリーズが現時点でEOS Kiss DigitalのRAW現像でトーンカーブとヒストグラムを操作できる唯一の製品である。WindowsユーザーでEOS Kiss Digitalしか使っていないのなら、C1 Rebelで十分だ。
キヤノンの「割り切り」についてあれこれとツッコミを入れてきたが、実は僕は、デジタル一眼レフの裾野を広げてくれるのは、ニコンではなくキヤノンだろうと期待している。だからこそ、RAW現像ソフトの開発にもっと気合いを入れて欲しいのだ。
デジタル一眼レフの分野ではプロ向け一辺倒のニコンに対して、コンシューマー向け製品ではキヤノンが数歩先を行っている。キヤノンはEOS Kiss Digitalでこれまでコンパクトタイプのデジカメを使っていたユーザーを、デジタル一眼レフの世界に引き入れようと目論んでいるはずだ。RAWを撮って展開する――という使い方を、頭から「不要なこと」と捉えている訳ではないだろう。
D100で引き離したかと思ったら10Dで追いつかれ、Kissで追い抜かれてしまったライバルのニコンも、ついに低価格デジタル一眼レフ・D70を発表した。明らかな対抗製品である。一方キヤノンは、今春、大阪でプロ専門のショウルームをオープンさせ、修理窓口も分化させるようだ。ローエンド機でユーザーの裾野を広げつつ、ハイレベルなユーザーの囲い込みを図る戦略で、また一歩先を狙う。今後の展開が楽しみだ。
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