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“日本型ウインドウ戦略”は成功するか?西正(1/2 ページ)

» 2005年03月11日 12時24分 公開
[西正,ITmedia]

ブロードメディア・スタジオの試み

 ソフトバンクグループで映画配信事業を展開するブロードメディア・スタジオは、1月29日から同社の劇場配給作品である中国映画「故郷(ふるさと)の香り」の全国ロードショーを始め、3月からは同映画のブロードバンド配信も開始した。同じソフトバンクグループであるBBケーブルのテレビ受像機を対象にしたVODサービスで視聴できるようにした。

 すなわち3月以降は、映画館とブロードバンド回線経由の両方で同作品を楽しむことが可能になったのである。4月からはさらに、ヤフーのパソコン向けサービス「Yahoo!動画」でも配信されることになっている。

 こうした手法は、これまでの映画興行の世界では考えられなかった。なぜなら「マルチウインドウ・リリース戦略」と呼ばれる米国型のウインドウ展開においては、興行収入を高めるためには、より多くのお金を払ってくれる人から“順に見せていく”という手法が、興行を成功させるための“セオリー”だと広く信じられてきたからだ。

 典型的なマルチウインドウ・リリース戦略では、たとえば映画でいえば、まず最初に劇場公開を行う。それが終了してしばらくすると、次いで航空機やホテルにおけるペイ・パー・ビューで放送する。さらに、その少し後に、ビデオやDVDなどにパッケージ化されて販売される。その直後ぐらいから家庭向けの有料放送として、ペイ・パー・ビューによる視聴も可能になってくる。ペイ・パー・ビューによる放映が終わる頃になると、今度は同じ有料放送でもペイ・テレビの方で見られるようになる。ここまでが、視聴者からすれば有料でなければ見られない時期に当たる。最後に、大体2年後ぐらいをメドにして、広告放送の地上波のネットワーク・テレビなどで見られるようになる。

 非常に理に適った手法であり、まさにハリウッドの成功を支え続けた仕組みであると評価できる。日本においても、この手法が参考にされているが、日米のメディア事情が大きく異なる点は見過ごされたままだ。

 それは、地上波放送が、視聴者からすると確かに無料放送なのだが、映画作品などの供給先からすると、“国内最大の買い手”であるということだ。有料放送の視聴比率が無料放送のそれを上回っている米国とは違って、日本の有料放送の視聴比率は2割弱にとどまっている。

 日本の場合、極論すれば、いきなり地上波で流してしまった方が、得られる利益は大きいとさえ言える。とは言え、映画館で見るのと、家庭のテレビで見るのとでは、作品の訴求力が異なる。ハリウッド映画に限らず、邦画であっても、映画館で見た方が、より作品の良さを引き出せるものは多い。また、最大の買い手である地上波局に売るにしても、劇場への観客動員数などで話題となっていた方が有利であることも確かだ。

 日本型のウンイドウ展開のあり方を模索するのであれば、地上波の順位を米国と同じように考えるわけにはいかない。そうかと言って、地上波から真っ先に流すというビジネスモデルも考えにくい。

 今回のブロードメディア・スタジオの試みは、そうした模索が続く中で注目に値する。単館からヒット作が出る傾向は確実に高まっている。それを支えるのは「口コミ」だ。その「口コミ」を作り出す手法としてテレビCMを使ったのでは、とうてい採算が合わない。これは言うまでもないことだ。

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