コラム
» 2006年12月01日 12時30分 UPDATE

ネットベンチャー3.0【第18回】:バイラルマーケティングには可視化とリスペクトが必要だ(上) (1/2)

佐々木俊尚氏が日本のベンチャーにおけるWeb2.0ビジネス最前線を描く連載企画。ブロガーを巻き込み、ブログをマーケティングツールとして使うバイラルマーケティングの問題点と変化を取り上げる。

[佐々木俊尚,ITmedia]

バイラルマーケティングとブログ炎上

 「カリスマブロガー」とされる女子大生のブログが炎上する事件が、11月に起きた。きっかけは、彼女がNHKのニュース番組「ニュースウォッチ9」で取り上げられたことである。経緯を簡単に振り返っておこう。

 番組は「“クチコミ”に注目 広告戦略の舞台裏」と題し、「商品の新しい宣伝手段として企業の期待を集めるブロガー。中でもカリスマブロガーと呼ばれるブロガーを訪ねました」というナレーションとともに、女子大生を紹介する。「彼女のブログは1日1万人もの人が読むまでになりました。友達に話しかけるような自然な文体が、女子大生やOLの支持を集めています」

 そして女子大生のある1日を紹介。映画の試写会で「ブログに感想を書くことを条件に、女子大生20人が集められました」とナレーション。さらに試写会場から街中のレストランへと移動し、「日が暮れた後向かった先は、西麻布のレストラン。今度はブロガー向けの試食会です。飲食は無料。ブログに感想を書けば、レストランから謝礼も支払われます」

 レストランの経営者は、インタビューに対して「効果がクチコミが一番大きいと思います」と答えている。ナレーションは、「(彼女が)ブログに書き込むことで、売上が倍増した商品もあります。いまでは月20件ほどの記事を請け負い、1件数千円の報酬を得たり、商品の提供を受けたりしています」と続く。そして女子大生本人のインタビューへと移り、「経験を私はさせてもらっている側なのに、企業からおかねとかお給料をいただけるのは、すごく光栄というか嬉しいですね。ラッキーなことというか」などというコメントが紹介される。

 この後、別のPR会社が、女子大生ブロガー100人を組織化していることを紹介し、「ただ書き込みを依頼するだけでなく、なるべく魅力的なブログを書いてもらうように指導もしています」と説明。企業からの依頼で、「必ず画像を入れること」「自分の顔のアップと商品を一緒に」などの指示とともに、謝礼を払って女子大生たちに商品の紹介エントリーを書いてもらっている様子も描いた。

 これが発端となって「ネットでの工作活動じゃないか」と批判され、2ちゃんねるなどで祭り状態に。さらにこの女子大生のブログも炎上し、大騒ぎになったのである。

 炎上から3日後、女子大生は自分のブログで「取材を受けて。」というエントリーをアップし、次のように書いた。

私が取材でお伝えしたかった「毎日を大切に感じることができるブロガー経験の素晴らしさ」や「ブログがなければ出会えなかったかもしれない人やモノとの素敵な出会い」、「自分が経験したことを自分なりの視点で伝えていくということの楽しさ」

「たくさんの中から自分が心から『良い』と感じたことだけを選び取って紹介していくオリジナル感覚」などは殆ど削除され、「企業の方が提供してくださった商品をリポートした」という部分だけがクローズアップされていました。

番組的にはそのような内容が望ましかったのかもしれませんが、私は少し悲しい気持ちです・・・。

広告と表現の狭間で

 こうした事件は、過去に何度となく起きている。たとえば、ワーキングマザースタイルをめぐる一件については、2005年4月にCNETのこの記事で書いた。さらに遠い昔には、ascii24で検索連動型広告をめぐるこういう記事を書いたこともある。そもそもが「広告」と「表現」をどうバランスを取り、どう切り分けるかというのは、インターネットに限らず、メディアの世界では古くて新しい問題だ。

 しかしブログの世界で、この問題――純粋な表現だと思っていたら、実は広告だったという問題がいまもホットな焦点となっているのは、もう少し別の意味があるからだと思われる。インターネットの世界では、プロセスの可視化に対する圧力がきわめて高いからではないか。

 それはタウンミーティング問題に対する、人々の嫌悪感にもつながっている。タウンミーティング問題というのは、今年9月2日に青森県八戸市で開かれた政府主催の「教育改革タウンミーティング」で、内閣府が教育基本法改正法案に賛成の立場で質問するよう、質問項目も用意。学校やPTAにシナリオ、注意事項などを配布、依頼していたという問題だ。八戸市以外にも大分や岐阜、山形などで発覚し、各地で「やらせ質問」が行われていたことが明らかになっている。

 しかし実のところ、1990年代までは政府や自治体主催のイベント、行動などでこうした「やらせ」は日常的に行われていた。私が新聞記者時代に取材した地方自治の経験でいえば、たとえば1980年代から90年代初頭にかけ、岐阜県では長良川河口堰反対運動がたいへんな勢いで盛り上がったが、この計画を推進する建設省(現国土交通省)や岐阜県は、地元自治体などを通じて「河口堰推進運動」を組織していた。これは実に、「やらせ」きわまりない運動だった。自治体から町内会を通じてデモへの動員がさかんに行われ、この結果、反対運動のデモやイベントにいつも参加している地元住民が、町内会からの要請で仕方なく推進デモにも参加し、「河口堰を作ろう」と書いたプラカードを手にして歩く、という冗談にもならないような光景が繰り広げられていたのである。

 しかし当時、この問題を取材していた私も、あるいはその事情をよく知っていた他の新聞社の記者も、そうした「やらせ推進運動」が行われていることを記事にしようということは、ほとんど考えなかった。いま考えれば不思議なことだとは思うのだが、1980年代当時、国や県が主導して作る団体や運動というのは、「やらせ」がごく当たり前で、それに疑問を持つ人はほとんどいなかったのである。

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