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» 2007年01月12日 19時30分 UPDATE

科学なニュースとニュースの科学:【新連載】太陽系の果ては案外にぎやか 〜冥王星騒動で見えてきたこと〜

作家/脚本家/翻訳家/批評家で多くのテレビアニメのSF設定も手がける堺三保氏に、気になる科学の話題をピックアップして独自の視点で語っていただく新連載コラムです。初回は昨年夏に大きな話題となった冥王星騒動を取り上げます。

[堺三保,ITmedia]

 冥王星を惑星から矮惑星に変更するという国際天文学連合の昨年8月の決議は、アメリカの科学者たちが反対する署名運動をおこなったりして、いまだに何かと騒がしいけど、実際のところ、何が問題となっているのかについては、騒ぎが大きくなればなるほど、逆にあまり語られなくなっている気がする。

 元々の問題は、冥王星そのものじゃなくて、その向こう側にある新天体が見つかって、それが冥王星に次ぐ第10番目の惑星なんかないかって話が出たことだったんだよね。

 この新しく見つかった星っていうのが、こないだ国際天文学連合(IAU)がギリシャ神話に登場する「混沌(こんとん)」と「不和」の女神にちなみ「エリス」と命名した矮(わい)惑星(発見時の名前は「2003UB313」)だった。

 このエリスは、2003年、米カリフォルニア工科大のグループによって冥王星の外側で発見されたもので、詳しい観測の結果、2005年に、冥王星よりも大きいことが判明したため、一気に「“第10番”惑星と認めるべきではないか」という議論が起こった。

イラスト

 こないだの国際天文学連合の議論はそれを受けておこなわれたもので、初めのうちは3つの天体を新たに「惑星」として認めるかどうかっていう話だった。つまり、太陽系の惑星が、9個から12個に増えるかも知れなかったんだけど、ふたを開けてみたら、逆に1つ減って8個になっちゃったってわけ。

 要は、エリスを惑星だと認めるなら、それ以前に発見されて小惑星や衛星に分類されてた星(アステロイドベルトで最大級の小惑星であるセレス(もしくはケレス)と、冥王星の衛星であるカロン)も、惑星だと考えるべきなんじゃないの、って思った人たちがいたってことだ。

 つまり、ちょっと乱暴な言い方だけど、今回の騒動ってのは、それら3つの星を「惑星」として認めちゃうと、これからさらにいくつもの「惑星」が、冥王星より遠くでどんどん発見されちゃうかもしれないんで、いっそ3つとも「惑星」じゃないってことにしようとする理屈を考えていったら、その中に冥王星も含まれちゃったってことなんじゃないかと、筆者は思ってる。

 さて、なんでそんなことになっちゃったのかというと、その背景には、天体観測技術の進歩ってやつがある。

 自分で光ってる太陽みたいな恒星と違って、自分では光ってなくて、恒星の光を反射して光って見えている星(惑星とか衛星とか彗星とかそういったもの)は、地球から遠くにある(ということは、太陽からも遠い)ものほど、当たり前だけど、望遠鏡で見つけることが難しかったし、見つけたとしても正確な姿はなかなか分からなかった。

 例えば、問題の冥王星なんかも、1930年の発見当時には、衛星があるなんて分からなかったんだけど、1978年にはカロンという衛星があることが分かったし、2005年にはさらに2個の衛星、ニクスとヒドラが発見されてる。それだけじゃなくて、カロンというのはかなり大きな星で、冥王星とカロンは惑星と衛星というより、二連星だという説もあるくらいだ(だから、冥王星やエリスが惑星なんだったら、カロンだって惑星とみなすべきだって話も出ていた)。でもって、冥王星発見当時の観測じゃ、この2つの星が1つの星に見えちゃってたもんだから、その頃は冥王星ってのはもっと大きな星だと思われてたりもしたのだった。

 ところが、近年の観測技術の進歩によって、太陽系の外れのほうの観測が進むにつれて、どうも「冥王星くらいの大きさの天体がゴロゴロ存在する」ってことが確認され始めたのだ。

 元々、太陽系を取り巻く外延部には、彗星の起源となる小惑星帯(アステロイド・ベルト)があるのではないかという説があった。それらはエッジワース・カイパーベルトとか、オールトの雲とか呼ばれてたんだけど、エリスを含む近年の発見は、この小惑星帯が存在する証拠だとみなされてるのだ(ちなみに、これらの太陽系天体を、今後は「トランス・ネプチュニアン天体」(直訳すると「海王星以遠天体」)と呼ぶことになるんだとか)。

 つまり、結論としては、これからもどんどんエリスみたいな新天体がいくつも見つかる可能性があるってこと。

 そのたびに、それらをいちいち「惑星」だって認定してたら、それこそ惑星の数はいくつになるか分かったもんじゃないわけで、今回のIAUの決定は、そういう事態を避ける意味合いもあるんじゃないかって、筆者なんかは思ってるのだった。冥王星は、はっきりいって、そのとばっちりを受けちゃったってところだろう。

 どうも、太陽系の外側は、ぼくらが抱いてたさびしそうなイメージとは違って、案外にぎやかなところなのかもしれないのだ。

(次回はイグ・ノーベル賞受賞発明についてです。19日掲載予定)

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堺三保氏のプロフィール

作家/脚本家/翻訳家/批評家。

1963年、大阪生。関西大学大学院工学研究科電子工学専攻博士課程前期修了(工学修士)。NTTデータ通信に勤務中の1990年頃より執筆活動を始め、94年に文筆専業となる。得意なフィールドはSF、ミステリ等。アメリカのテレビドラマとコミックスについては特に詳しい。SF設定及びシナリオライターとして参加したテレビアニメ作品多数。仕事一覧はURLを参照されたし。2007年1月より、USCこと南カリフォルニア大学大学院映画学部のfilm productionコースに留学中。目標は日米両国で仕事が出来る映像演出家。

ウェブサイトはhttp://www.kt.rim.or.jp/~m_sakai/、ブログは堺三保の「人生は四十一から」


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