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普及までにはまだ遠い仮想世界の現実

» 2007年05月25日 15時25分 公開
[Jim Rapoza,eWEEK]
eWEEK

 ニール・スティーブンスンのサイバーパンク小説「スノウ・クラッシュ」(1992年)に出てくる主人公のヒロ・プロタゴニストは、悪戦苦闘するピザ配達人だ。同時にサムライの剣を操るパワフルなヒーローでもある。

 どうしてその両方が同時に成り立つのか。理由は簡単。ヒロは現実世界ではピザ配達人で、メタバースという仮想世界ではパワフルなサムライヒーローなのだ。現在、これと同じようなことがわたしたちの世界でも起きている。

 ランチタイムに誰とも話をしないような物静かで控えめな女性が、Second Lifeの仮想世界では華やかな人気ナイトクラブを経営している。体力だけが取りえのようなゴマすり営業マンが、World of WarcraftのMMOG(多人数参加型オンラインゲーム)では絶大な力を持ったエルフの魔法使いだったりする。

 ビジネスに携わる者の多くにとって、確かにこうした仮想世界は、人々が現実世界から身を隠すゲームと大差ないように見えるかもしれない。しかし、これら仮想世界では既に極めて多くのビジネスが営まれており、近い将来、ますます増えるだろう。

 もっとも、Second LifeやThere.comのような仮想界は、ハマりやすい環境の創出において偉大な功績があったかもしれないが、まだ一般への普及には程遠く、スティーブンスンのメタバースのようなパワーもない。現在のWebのように普遍的で使いやすいものになるには相当の障壁もある。

 わたしにとって、第1の障壁はそれ自体の環境だ。これはFlashプログラムのような小型軽量アプリケーションではない。ダウンロードサイズが大きく、相当のシステムとネットワークリソースを消費しかねない大型ビデオゲームなのだ。仕事をしながらIMアプリケーションを起動しておくことはできても、Second Lifeを実行しながら仕事をするのはほとんど不可能に近い。

 もう1つの障壁は使いやすさの問題だ。ゲームになじんでいるわたしにとって、Second Lifeのような環境のこつをつかむことにほとんど問題はなかった。しかしコンピュータ全般に詳しいのに、こうした仮想世界に入ってどうしていいか全く分からずにいるユーザーを多数見てきた。試してはみたがさっさとやめてしまい、二度と戻って来ない人がこれほど多いのはそういう理由だ。

 こうした世界が、どんな形であれ相互に接触することのない孤島状態にあるというのも事実だ。複数の世界で仕事をしなければならない場合、複数の仮想世界アプリケーションをインストールし、それぞれで新しいアバターを作成し、まったく新しい人格を持つか、ほかの仮想世界の人格を新しい世界に移植する必要がある。

 このような事情から、仮想世界は現在、Webのように普遍的な存在になれずにいる。しかしそれでも仮想世界で既に存在を確立している企業も多い。Second Lifeなどの世界に行ってみれば、現実世界の企業のオフィスがあり、会議や記者会見に出席したり、そしてもちろん、実質的な仮想世界広告を多数目の当たりにする。

 それ以外にも、こうした世界では社交活動もある。仮想アバター2人の間で大型の取引が交わされたことも間違いなくある。そのほかにも特定企業の従業員とパートナーだけが見ることのできる「イントラネット」が導入されることもある。

 では企業は直ちに仮想世界に進出すべきだろうか。ビジネスには、仮想世界にうまく転換できないことがまだたくさんあり、こうした環境のユーザーが数百万人いるとはいっても、使わない人の数はそれよりもはるかに多い。

 わたしの意見では、こうした世界はもっと使いやすくなり、相互交流可能になって導入が簡単になるまで、本当の意味で飛躍することはないだろう。それでもこうした仮想世界、およびそれが今後数年でどこへ向かうかについて、理解しておくことはお勧めしたい。多くの点で、これらの世界の技術は初期のWebのような状態にある。

 こうした世界は1人でいるのが好きなオタクが現実世界の代わりに出入りする場所だとして片付けてしまうのは避けたいと思う。Webの初期のころに同じようなことを言っていた人はたくさんいたのだから。

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