コラム
» 2007年06月08日 12時30分 UPDATE

科学なニュースとニュースの科学:【第13回】ティラノサウルスとニワトリは親戚か?

骨格構造が類似していることから“鳥類の先祖は恐竜だ”という仮説があることは皆さんもご存じだと思いますが、その仮説を裏付ける新しい証拠が発見されました。

[堺三保,ITmedia]

 今回の表題を見て、「何を今さら」と思われた方も多いかもしれない。さまざまなメディアでも取り上げられているように、「鳥類は恐竜から進化した」という仮説がすでに主流となっているからだ。

 ただ、その根拠はこれまでは両者の骨格の構造が似ているからだったんだけど、この4月に、それを補強できる他の証拠が初めて発見されたというニュースが発表されたのだ。

 ノースカロライナ州立大学の古生物学者のグループが、6800万年前の肉食恐竜、ティラノサウルス・レックスの化石の脚部から採取されたタンパク質の小片が膠原質(コラーゲン)であることを確定したというのである。

 今までの通説だと、コラーゲンは数百万年もの時間が経ってしまうと、分解してしまうと考えられてたんだけど、このグループがおこなった分析によれば、この小片が、ほとんど検出されたことのない恐竜の軟組織の名残であることはほとんど間違いないんだとか。

 でもって、このコラーゲンのアミノ酸の配列まで確定することができ、それによると、そのアミノ酸の配列が鳥類と似ていたんだとか。

イラスト

 というわけで、恐竜と鳥類が進化的に近い関係にあるとの説を、アミノ酸の配列が近似していることからも補強できるようになったと、今回のニュースでは言われてるのだ。

 ただ、この記事をよく読んだら、ニワトリとよく似ているだけじゃなくて、程度はもっと低いもののカエルやイモリといった両生類にも似てるらしいんだよね。それじゃ、証拠としてはちょっと弱いような気がするのは筆者だけ?

 実のところ、鳥類の進化論的な起源については、今まで時代とともに、いろんな説が唱えられてきている。

 最初に恐竜と鳥が関連づけられたのは、19世紀半ば、始祖鳥の化石が発見されたときである。羽毛を持つその姿があきらかに鳥を思わせると同時に、小型恐竜の化石とも酷似していたため、ちょうどその直後にダーウィンの『種の起源』が発表されて始まった、「進化論」対「創造説」の論争の格好の題材となったのだった。当時の進化論派最大の論客であったトーマス・ハクスリーは始祖鳥を鳥類の祖先であるとし、鳥類の起源は恐竜であると論じたのだ。

 ところが、20世紀に入ると、骨格上の特徴の再検討から、恐竜と鳥類は樹上棲の小型爬虫類を共通の先祖として、そこから別々に進化したという考え方が支配的になった。

 鳥類の恐竜起源説が復活したのは、1970年代のいわゆる「恐竜ルネサンス」と呼ばれる恐竜の概念が大きく変化した時期のことだ。

 もっとも、今でも、やはり「鳥は、恐竜ではなく、(未発見の)小型の樹上性爬虫類から進化した」のだという説を唱えている鳥類学者のアラン・フェドゥーシアや、さらに過激に今までの説とは逆に「鳥類から恐竜が進化したのだ」というBCF(Birds Came First)理論もしくは「ダイノバード」理論を唱えるジョージ・オルシェフスキー(この人はあくまでアマチュア恐竜マニアだけど)なんて人までいる。

 と、いろいろ書いてきたけど、系統学、あるいは分岐分類学の立場から言えば、これらの主張はいずれも科学的な論理性に乏しく、検討に値しないとされている(逆に言えば、今、鳥の恐竜起源説に反対意見を唱えている人たちは、分岐学をまったく認めていないので、議論にならないのだともいう)。つまり、今回提出された証拠がなくても、今のところ鳥の恐竜起源説は揺るぎそうにないのだ。

 とはいえ、今回の発見に意味がないと言うつもりは全然ない。

 これまで恐竜みたいに大昔に絶滅してしまった化石生物については、遺伝子塩基配列やアミノ酸配列を用いる、いわゆる「分子系統学」的な研究は不可能だと言われてたんだから、今回の発表はかなり画期的な気もするのだ。

 これがきっかけになって、保存状態の良い化石を詳細に検査することで、軟組織の発見がもっと増え、いろんな化石生物のアミノ酸配列の比較がおこなわれるようなことになれば、もしかしてもしかすると、これまでの分類ががらりと変化するような新説が生まれてくるかもしれないではないか。

 というわけで、今後、同じ手法による古生物の分子系統学的研究が進むことを、大いに期待したいと思うのですよ。

堺三保氏のプロフィール

作家/脚本家/翻訳家/批評家。

1963年、大阪生。関西大学大学院工学研究科電子工学専攻博士課程前期修了(工学修士)。NTTデータ通信に勤務中の1990年頃より執筆活動を始め、94年に文筆専業となる。得意なフィールドはSF、ミステリ等。アメリカのテレビドラマとコミックスについては特に詳しい。SF設定及びシナリオライターとして参加したテレビアニメ作品多数。仕事一覧はURLを参照されたし。2007年1月より、USCこと南カリフォルニア大学大学院映画学部のfilm productionコースに留学中。目標は日米両国で仕事ができる映像演出家。

ウェブサイトはhttp://www.kt.rim.or.jp/~m_sakai/、ブログは堺三保の「人生は四十一から」


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