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Windows 7の製品エディションは1つ?

» 2008年09月09日 15時40分 公開
[Joe Wilcox,eWEEK]
eWEEK

 米Microsoftは“out-of-box experience(PCを箱から出して使えるようになるまでのユーザー体験)”を最優先し、Windows 7では用途別のアプローチを取らない方針のようだ。

 わたしは、MicrosoftがWindows 7についても用途別のアプローチを取るものと思っていた。だがWindows&Windows Liveエンジニアリング担当上級副社長のスティーブン・シノフスキー氏が9月5日付で投稿したブログ記事によると、そうした種別は設けられないようだ。同氏はその理由として幾つか納得のいく説明を行っている。

 このブログ投稿において、シノフスキー氏はWindows Server 2008のロールベースのアプローチは顧客に広く歓迎されたと説明している。「だがデスクトップPCやノートPCでは事情が異なる。PCは1台しかなく、用途はそれほどはっきり定義されているわけではないからだ。PCが1つの用途に限定して使われるというのは極めてまれなケースだ」と同氏は記している。

 「われわれがこれまでに実施した調査によれば、大概のPCで、ほかの人が使っていないようなソフトウェアが少なくとも1つは実行されている。つまり、われわれはPCに特定のロール(役割)を割り当てるべきではないということだ」とさらに同氏は続けている。

 シノフスキー氏はPCを独特なデバイスととらえている。つまり、大概の製品は1つか2つの用途を想定して作られているが、PCは「さまざまな作業をうまくこなせるスイスアーミーナイフのようである」という点で特異だ。

 シノフスキー氏はMicrosoft Officeの開発責任者としてよく知られている。同氏はOfficeのバージョン95と97で用途別のインストールプロセスがうまくいかなかった件について、ブログで次のように説明している。

 われわれはセットアップウィザードを使ってユーザーにWordやExcel、PowerPoint、Accessをどのくらい使うかを尋ねたり、あるいはタクソノミー(分類)を用いて職業(弁護士、会計士、教師など)を尋ねることができると思っていた。それによって、どのアプリケーションをインストールするかだけでなく、どのアプリケーションのどの機能をインストールすべきかを判断するつもりだった。だが、われわれは常に2つの問題に直面させられた。1つには、ユーザーを分類するための記述子や質問に到達するたびに、回答の有用性という点で問題が生じた。2つ目は、同じPCを複数のユーザーで使う状況や、用途や利用パターンをその都度変えるユーザーがいるという現実にどう対処するかという問題だ。企業顧客もそうした問題を理解し、結局はすべての要素をインストールするのが慣例となった。

 MicrosoftはWindows 7に関して――恐らくこれまでのバージョンのWindowsと同様――、シノフスキー氏が呼ぶところの“OOBE(out-of-box experience)”を大いに気にしているようだ。「Windows 7については、われわれはパートナーであるPCメーカー各社と緊密に協力し、OOBEをできる限り簡素化して提供できるよう取り組んでいる。この目標は、“プロファイリング”や“ウィザード”を用いてPCの用途や利用法に関する購入時の意図を判断するといったやり方とは相反することになるかもしれない」とシノフスキー氏はブログに記している。

 out-of-box experienceが非常に重要であるという同氏の意見は正しい。製品やブランドに対するイメージは第一印象に大きく左右される。Microsoftにとって、Windows Vistaの最大の問題点の1つに第一印象の悪さがある。何しろ、消費者は買ったばかりのピカピカのVista PCを家に持ち帰ったところでようやく、手持ちのスキャナやプリンタがVistaに対応していないことに気付かされたのだ。これは、ドライバが提供されていなかったからであり、一部のハードウェアについてはいまだにドライバが提供されていないものもある。企業ではアプリケーションの互換性の問題が頻発し、一般ユーザーもUAC(ユーザーアカウント制御)プロンプトやユーザーインタフェースの変更など、従来より複雑な作業を強いられた。

 「われわれがout-of-box experienceで目指しているのは、複雑さを排除することだ。顧客は新しいPCを買ったらすぐに使い始めたいものであり、複雑な設定など望んでいない」とシノフスキー氏は述べている。彼が言っていることは正しい。Microsoftもそれは望んでいない。

 もっとも、わたしは少々驚いてはいる。なぜなら、Windows Vistaには製品エディション(SKU)の区別があるからだ。なかでもVistaの主要な5バージョンでは、中小規模企業向けのBusiness、大企業向けのEnterprise、ローコストコンピューティングを実現するためのBasic、消費者向けのPremium、全機能搭載のUltimateといった具合に、その用途と価格がはっきり区別されている。

 だがこうした用途別の分類は顧客の実情に即したものになっていない。Vista Enterpriseを希望する大企業はSoftware Assuranceを介して購入しなければならず、また大半の小規模企業はボリュームライセンス契約の条件を望まないか、あるいは満たしていないため、BitLockerドライブ暗号化を利用したい場合には大概Ultimateを選ぶ必要があるといった具合だ。

 わたしは以前から、OSのエディションは1種類であるべきだと主張している。実際、Appleはそうしており、それが効果を上げている。用途別分類にも意味はあるが、それはPCメーカーを介したものだ。わたしは、用途別の設定を介して顧客のOOBEが急速に低下しかねないというシノフスキー氏の見解に賛成だ。だから、用途別役割はハードウェア構成に基づいてPCメーカーに割り当ててもらえばいい。「すべてのPCは大半のユーザーに気に入られるものでなければならない」などと定めたルールブックなどないのだから。

 一部のPCメーカーは既にハードウェア構成やマーケティングを介して用途別のアプローチを実行している。ミニノートPCやNetbookはその格好の例だ。サイズが小さく販売価格が安いことやハードウェア構成から、用途が限定されている。この手の携帯型デバイスは、例えば、Webを使うのに適している。

 わたしはシノフスキー氏の優先順位の付け方に賛成だ。Microsoftがちょうど良いout-of-box experienceを提供できれば、それはWindows 7にとっても、その顧客やPCメーカーにとっても、プラスとなるだろう。幸運を祈る。

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