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スティーブ・ジョブズ氏の時代は終わった

» 2009年01月15日 13時54分 公開
[Joe Wilcox,eWEEK]
eWEEK

 もうこの件について現実から目をそらすのはやめにしようではないか。

 来週の米Appleの決算発表会で発表されるのだろうと思っていたニュースが今日、1月14日に明らかになった。そのニュースとは、「スティーブ・ジョブズ氏はもうAppleの経営を続けられない」というもの。実のところ、わたしはジョブズ氏がCEOの座を退くものと思っていた。だが実際には、同氏は休職するのだという。でも結局は同じことだ。今回の休職は不可避な事態を引き伸ばしているにすぎない。ジョブズ氏はもうAppleの経営を続けられないのだ。わたしは同氏がCEO職を続けるとも思っていない。

 ジョブズ氏は従業員への電子メールでこのニュースを発表した。メールには、「自身の健康問題が当初思っていたよりも複雑であることが判明した」と説明されている。休職は6月末までの予定というが、昨今の世界的な経済危機にあって、それは永遠も同然だ。

 わたしの予想通り、Appleの取締役会は見事に約束を破ってくれた。わずか9日前には、Appleの取締役会は次のように断言していたのだ。「かねて述べている通り、もしジョブズ氏が引退を望んだり、あるいは何かほかの事情によりAppleのCEOとして職務を果たせなくなった場合は、皆さんにきちんとお知らせする」と。なるほど。でも、どういう方法で? 取締役会が責任をもって知らせてくれる? あるいはジョブズ氏が従業員にあてたメールを通じて?

 わたしがジョブズ氏の休職について最初に知ったのは、担当編集者の1人からだった。この件についてTwitter周辺でうわさが飛び交い出すより先に、この編集者はわたしにインスタントメッセージ(IM)を送ってきた。何か会社に関するニュースのためにAppleの時間外取引が中止されているという記事を見たのだという。そしてその数分後に、金融サイトやニュースサイト、そしてTwitterかいわいでジョブズ氏の休職に関する速報が相次いで報じられた。

 ええ? これがAppleの取締役会からのお知らせ? わたしが株主なら、激怒していただろう。

 こういうときこそ、わたしが悪者にならなければ。わたしはあえて、ジョブズ氏の健康を気遣わないでおく。恐らくMacファンからは非難ごうごうだろう。だが、言いづらくても言うべきことは言わなければ。それは、今回、無責任な行動をとった人がいるということだ。AppleのCEOの健康問題が十分に伝えられずにきたのだ。世の中には、「ジョブズ氏のことはそっとしておいてあげよう」などという意見も多い。ジョブズ氏の健康問題はプライベートなことだから、と。とんでもない。ジョブズ氏の健康問題は決してプライベートなことなどではない。

 スティーブ・ジョブズは株式公開企業のCEOだ。株式会社の経営者にプライベートな問題などない。さらに重要なことには、ジョブズ氏は普通のCEOとは違う。同氏はAppleの象徴ともいうべき存在であり、多くはジョブズ氏とAppleを同一視している。だからこそ、同氏の健康問題はなおさら重要なのだ。

 ここで問題となるのは次の点だ。誰が、どの段階で、何を知っていたか? ジョブズ氏の健康状態は自身が思うよりはるかに深刻だったが、同氏はその事実を受け入れられずに現実から目をそむけていたのだろうか? あるいは、ジョブズ氏とApple取締役会および同社の幹部らはジョブズ氏の健康問題の深刻さを知りながら、それを隠していたのだろうか?

 Appleはジョブス氏の14日のメールを公開するわずか9日前にも、自らの健康状態を説明した同氏のメールを公開している。この5日付のメールは、わたしがかねて指摘していたことが正しかったことを暗に認める結果となった。つまり、Appleは先週開催されたMacworldでジョブズ氏が基調講演を行わない本当の理由が健康上の問題にあることを隠そうとしていたのだ。どう控えめに考えても、率直さに欠ける人間がいたのは確実だ。

 わたしはジョブズ氏の状況に同情はしている。だがAppleの株主のためにも誰かがはっきり言う必要がある。Appleがこれまで率直さに欠けていたのなら、この先6カ月間だって同じかもしれない。ジョブズ氏は14日付のメールで次のように述べている。「戦略的に重要な案件については休職中もCEOとして意思決定にかかわる」

 少なくともこれまで6カ月間、ジョブズ氏の健康問題がどのように伝えられていたかを思い返して、皆さんなら、この発言を信じられるだろうか? わたしには無理だ。申し訳ないが、わたしはジョブズ氏が復帰するとも思っていない。スティーブ・ジョブズ氏の時代――Appleにとって最高の時代だった――は終わったのだ。病状が本当に悪いのなら、ジョブズ氏は身を引くべきだろう。そして専心療養に努め、自分や家族のことを大事にすべきだ。ジョブズ氏は偉大な遺産を残してくれた。十分な遺産だ。

 「わたしの個人的な健康問題に関する好奇心が家族やAppleに混乱をもたらしている」とジョブズ氏は14日付のメールで述べている。だがこれは好奇心などではない。皆はジョブズ氏のことやAppleのことを心配し、そして自分自身のこと――顧客やパートナー企業、株主であれば――を心配しているのだ。Appleは株式公開企業であり、株式会社には情報開示の義務がある。なのに、ジョブズ氏の健康については一切情報が提供されていない。

 そろそろAppleの取締役会もでたらめを言うのはやめて、正しいことをすべきだろう。ジョブズ氏の病状について明確に説明し、ジョブズ氏復帰の現実的な可能性や、不測の事態に備えての新経営陣への移行プランなどについても、6月を待たずにきちんと説明する必要があるだろう。もしジョブズ氏が復帰できなかった場合――わたしはそう確信しているが――、どうなるのだろう?

 株式会社は顧客に迎合すれば成功できるというものではない。そろそろジョブズ氏に対する気持ちは脇へやり、Appleにとって正しいことを行うべきときだ。ジョブズ氏1人の会社ではないのだから、その1人の人間のプライバシーを守るために会社を犠牲にするわけにはいかない。

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