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2008年の科学10大ニュースって?科学なニュースとニュースの科学

» 2009年01月23日 18時13分 公開
[堺三保,ITmedia]

 ずいぶんと遅くなってしまいましたが、新年あけましておめでとうございます。最近、更新が遅れてますが、今年もよろしくご愛読の程を。

 さて、昨年末、「Science」誌が2008年における顕著な科学的成果のベスト10を発表したのはご存じだろうか。

 それによると、

1.細胞の再プログラミング(初期化)。

2.太陽系外惑星の直接検出。

 (以下順不同)

・がん遺伝子の多数検出。

・鉄化合物による高温超伝導体の発見。

・活動中の蛋白質の観察。

・余剰電力備蓄に有望なツールの発見。

・胚の映像の記録と分析。

・「良い」脂肪の解明。

・「世界」の質量の演算。

・より高速かつ低コストのゲノム塩基配列決定技術の開発。

──の10種類だとか。

photo Science「Breakthrough of the Year 2008」日本語版より

 とタイトルだけ並べてみても、なんだかよくわかりませんな。ただ、ざっと眺めただけでも、生命科学や医学系の研究成果が6つと、全体の半分以上あるのが目につくはず。天文なんて、第2位に入ってるとはいえ、1項目だけだもんね。

 それだけ、生物・医学系、特に細胞レベルより極小のレベルにおける研究が盛んであり、注目を集めているということだろう。

 例えば、1位に挙げられてる「細胞の再プログラミング」というのは、特定の病気にかかった患者の細胞と遺伝学的に一致する細胞を作って、その病気の解明や治療に役立てようというものだ。

 具体的には、人工多能性幹細胞(iPS細胞)の作成技術を応用した、アメリカのハーバード大の研究チームによる「難病患者細胞からのiPS細胞作成」のことだという。彼らは、筋萎縮(いしゅく)性側索硬化症(ALS)、1型糖尿病などの患者の細胞から、iPS細胞を作り出したのだ。

 これは、一昨年大きな話題となった、京都大学の山中伸弥教授が開発した「ヒトiPS細胞作成」技術を元にしたもので、今後もどんどん同技術の応用が広がっていくことが予想される。

 前にこの連載でも書いたけど、安全かつ確実な再生医療が近い将来確立されることになるかもしれない。もちろん、まだまだ解決しないといけない問題は理論的にも技術的にもたくさんあるみたいなんだけど。

 また「Science」誌はそれ以外にも、昨年の注目すべき出来事として、欧州原子核研究機構(CERN)の大型ハドロン衝突型加速器(Large Hadron Collider:LHC)をはじめとするヨーロッパにおけるビッグサイエンスプロジェクトの躍進を、そして憂慮すべき事態として、昨年末の経済崩壊による今年以降の科学研究費への影響を論じ、さらには今後注目すべきいくつかの研究についても言及している。

 まあ、世の中、あいかわらず問題が山積みで、どっちを向いても暗い話が多いけど、それでも、科学の世界では少しずつでもこうやって着実に新しい発見や発明が続いていることを知ると、筆者なんかはなんとなく勇気づけられるんだけど、読者の皆さんはどうだろう?

 なお、今回のトピックの詳細は、「Science」誌のページでどうぞ。

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堺三保氏のプロフィール

作家/脚本家/翻訳家/批評家。

1963年、大阪生。関西大学大学院工学研究科電子工学専攻博士課程前期修了(工学修士)。NTTデータ通信に勤務中の1990年頃より執筆活動を始め、94年に文筆専業となる。得意なフィールドはSF、ミステリ等。アメリカのテレビドラマとコミックスについては特に詳しい。SF設定及びシナリオライターとして参加したテレビアニメ作品多数。最近の仕事では、『ダイ・ハード4.0』(翻訳:扶桑社)がある。2007年1月より、USCこと南カリフォルニア大学大学院映画学部のfilm productionコースに留学中。目標は日米両国で仕事ができる映像演出家。

ブログは堺三保の「人生は四十一から」


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