仕事の基本をうまく伝えるには?【解決編】シゴトハック研究所

自分では当たり前にできていることでも、いざ人に説明するとなると難しいものです。初めて新入社員や後輩、部下をもったときなど、どのようにしたらいいでしょうか。

» 2007年04月06日 12時39分 公開
[大橋悦夫,ITmedia]

今回の課題

 仕事の基本をうまく伝えるには?

 コツ:疑似体験のための材料を提供する


 いよいよ4月になりました。新入社員が配属されてきたり、異動で後輩ができたり、あるいは初めて部下を持つという方もいらっしゃるでしょう。仕事の進め方について指導する立場になることも増えてきます。これは、自分のやってきた仕事を振り返るよい機会だといえます。

 とはいえ、自分では当たり前のようにできていることを改めて人に説明するのは意外と難しいものです。今回は、自分にとっては当然のようにできる「仕事の基本」をいかにうまく伝えるかについて考えてみます。

「考える」ステップが気づきを促す

 少し仕事から離れますが、筆者の知人に、半分趣味で英会話勉強会を運営している人がいます。彼が話してくれた以下のエピソードは非常に興味深いものでした。

 集まったメンバーの前で、リスニングの素材を流して、書き取りをしてもらったことがあったんです。メンバーは、聴きながら手元の紙に書き出していきます。いわゆるディクテーションですね。

 後から答え合わせをするんですが、どうもしっくり来ないと感じていたんです。いろいろ考えたのですが、結局はこちらから一方的に「解答」を示すだけなので、メンバーは受け身になってしまうんですね。

 そこで、2人1組のペアを作って、聴きながら一緒に考えてもらう、という風にしてみたんです。すると、「ここはこう言ってたよね?」とか「このフレーズは聴いたことがあるよ」という感じで、2人で力を合わせてディクテーションをするようになったんです。

 2人の力をもってしても「うーん、やっぱりここは分からないねー」ということになると、当然「答えは何だろう?」という期待が高まります。そこに「解答」を提示することで、「うわー、そうだったのか!」という“盛り上がり”が生まれるようになりました。僕が求めていたのはこれだったんですね。


 ほとんど補足の説明は不要ですが、ここから引き出せる教訓は「一方的に答えを示すだけでは身につきにくい」ということです。答えを示される前に、自分の頭で考え、それを口に出したり紙に書き出したり、あるいは人に話すことによって、考えただけでは思いつかなかったようなことが得られるのです。

 別の事例を見てみましょう。筆者は時折プレゼンをさせていただくのですが、その際に気をつけていることは、以下の3点です。

  1. スライドを切り替える前に聴衆に問いかける
  2. 結論を言う時には、直前に間を空ける
  3. 配付資料がある場合は、ところどころ穴を空けておく

 立て板に水のごとく、ひっきりなしに話してしまうと、聞いている側としては完全に受け身になってしまい、考えたり判断したりする余地がなくなってしまいます。そこで、

 「……という問題があるのですが、こういう場合はどうすればよいでしょう?」

 といった形で、いったん聴衆に問いかけをします。実際に質問をして、答えていただく場合もありますが、一番の狙いは「間を作る」ことです。実際に質問をされなかったとしても、プレゼンターから問いかけがあれば、聴衆は「指されるかもしれない」と感じて、反射的に答えを求めて考え始めます。

 配付資料があれば、そこにはポイントとなるキーワードだけを虫食い状態にしておきます。プレゼンの中で、そのキーワードを話せば、聴衆はその穴埋めをしながら聴いてくれるでしょう。

 人は「穴」があれば埋めたくなるものです。「穴」が空いたままその資料を持ち帰るのは何となく気持ちが落ち着かない、ということもあるでしょう。

 目的は、「相手に考えてもらう余地を作る」ことです。「この問いかけの答えは何だろう?」「この穴には何が入るんだろう?」といった問題意識を持ってもらえれば、自然と前向きに聞いてもらえるようになるからです。

 一方的に「答え」だけを与えられると、そのつもりがなくても「スルー」してしまうのです。

疑似体験のための材料を提供する

 これを人に何かを伝えようとするケースに応用するとすれば、相手に考えてもらったり、実際にやってみてもらったりする──ということになります。実際にやってみるのが難しい場合は、伝える側が「やってみて苦労したこと」を具体的に話すことです。

 ここでも、「苦労したこと」を一方的に話すのではなく、

 「…という状況に陥ったんだけど、キミだったらどうする?」

 という質問を挟むことで、材料を提供し、考えてもらうようにします。ここで期待するのは、「正解」ではなく「自分だったらこうする」という案です。これを手に「答え」に触れてもらうようにするのです。

 こうすることで、最初に考えた「自分だったらこうする」をベースに「答え」を吟味することができるようになります。英語のリスニングの際に、相方と相談しながら考えたり、プレゼンで「問いかけ」をフックにしたりするのと同じ効果が得られるはずです。

 なお、この方法は「伝えられる側」だけでなく「伝える側」にもメリットがあります。「うまく伝えるにはどうすればよいか?」という問いを自らに投げかけ続けることになるからです。

 人は、何もないところから何かを学ぶことは困難ですが、何か取っかかりがあればそれに注目します。聞かれれば答えを探そうとしますし、隠されていれば知りたくなります。あるいは、「短歌」のように、上の句があれば下の句を接ぎたくなるのです。

 「仕事の基本」に限らず、人に何かを伝える時には、相手に疑似体験のための材料を提供するとよいでしょう。

筆者:大橋悦夫

仕事を楽しくする研究日誌「シゴタノ!」管理人。日々の仕事を楽しくするためのヒントやアイデアを毎日紹介するほか「言葉にこだわるエンジニア」をモットーに、Webサイト構築・運営、システム企画・開発、各種執筆・セミナーなど幅広く活動中。近著に『スピードハックス 仕事のスピードをいきなり3倍にする技術』『「手帳ブログ」のススメ』がある。


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