環境の変化をチャンスに変えるには?【解決編】シゴトハック研究所

仕事にマンネリを感じたら環境を変えてみる──。多くの人が無意識に実践している方法でしょう。しかしこれに依存しすぎると“ゆでガエル”になってしまうかもしれません。

» 2007年03月30日 12時28分 公開
[大橋悦夫,ITmedia]

今回の課題

 環境の変化をチャンスに変えるには?

 コツ:「マイパターン」を定期的に見直す


 人は常に変化を求めつつも、同時に安定も指向するものです。風景がほとんど変わらない、何十キロも続くまっすぐな道を走るよりも、さまざまな景色が楽しめるような起伏に富んだ道を走る方が楽しく感じられる反面、あまりに変化が激しすぎると疲れてしまいます。それゆえ、ある程度は「常に変わらない部分」が必要になります。それがベースにあって初めて、ダイナミックな変化を楽しめるからです。

 クルマでいえば、シートベルトを締めることは「常に変わらない部分」です。最初は違和感を覚えたり、締め忘れたりすることもありますが、慣れてくると締めないほうが気持ち悪いとさえ感じるようになるでしょう。

 仕事においては、自分の中で確立している取り組み方で仕事に臨むことがこれにあたります。例えば、作業記録をつけないと気持ち悪い、と感じる人であれば、時間を忘れて思いつくままに次々と仕事をこなしていくことは、居心地の悪さを覚えるものになります。

 つまり、取り組む内容は別のものであったとしても、「そのやり方でやっていれば安心できる」という保証を人は求めるわけです。とはいえ、「そのやり方でやっていれば安心」は倦怠感を誘うものでもあります。「やるべきことはわかっているのに、どうもやる気が起きない」という場合は、この倦怠感が原因であることが少なくないでしょう。

 このような倦怠感を自分の意志だけで跳ね返すのは難しいものです。なぜなら、倦怠感の一部は「それをしないと気持ちが悪い」などと言いながら自分の意志で生み出したものだからです。

「環境ドリブン」を意識する

 昨今のソフトウェアのほとんどは、「イベントドリブン」と呼ばれる方式で作られています。例えば、右クリックでメニューを表示させたり、ダブルクリックでアプリケーションを起動させたり、ユーザーのアクション(=イベント)に応じて、動作するようになっているのです。

 言い換えれば、アクションの順番はソフトウェアの側では関知しないということです。あらかじめソフトウェアに組み込まれた処理内容が、ユーザーのアクションをきっかけにして必要に応じて呼び出される状態、だといえます。

 この考え方を仕事に当てはめれば、その日の仕事のすべてが書かれたタスクリストという「プログラム」を実行する際に、1つ1つのタスクごとに何らかのきっかけを与えることで「起動させる」ということになります。

 例えば、「報告書を書く」というタスクを前にして、どうにもやる気が起きなくなっている場合、手始めに「関連するファイルを開く」というアクションを行ってみると、自然とその仕事に入っていける、ということがあるでしょう。この時「関連するファイルを開く」というアクションは、「報告書を書く」というタスクを「起動させる」ための「イグニションキー」になっているわけです。

 さらに、アクションだけでなく、環境の変化もまた「イグニションキー」の役割を果たすことがあります。例えばPCを起動すると、すぐにメールチェックを始めるのは「PCの前に座っている」という環境が引き起こしていると考えることができます。

 環境の変化によって、何らかのきっかけが与えられることを「環境ドリブン」と呼ぶことにすれば、「シートベルトを締めないと気持ちが悪い」と感じられるのは「クルマに乗っている」という環境の変化がこれを引き起こしている「環境ドリブン」だといえます。

 「環境ドリブン」の考え方をうまく利用すれば、少ない手間で大きな成果を得ることができるはずです。細かいところまで考えなくても、その場に身を置けば自然と手が動くようになるからです。

 例えば、クルマに乗り込めば自然とシートベルトを締めるようになったり、報告書を書こうとすれば反射的に関連するファイルを開いたりするようになります。それゆえ、人は無意識に仕事をパターン化しようとするのでしょう。

 とはいえ、「環境ドリブン」に頼りすぎると、マイナスに作用することがあります。仕事のプロセスに意識が入る余地が少なくなるため、いわゆるマンネリ化が起こってしまうのです。そして、マンネリ化のプロセスはゆっくりと進行するため、気づくのが遅れがちです。

 「ゆでガエル」という言葉をご存知でしょうか。カエルをいきなり熱湯の中に入れれば、熱いのですぐに逃げ出しますが、冷たい水に入れておいて徐々にゆでていくと、沸騰した頃にはカエルはすでに体力が消耗していて、逃げられなくなってしまうのです。

 「環境ドリブン」によって長く繰り返していることには、疑問を差し挟む余地が少なくなるのです。

「環境ドリブン」に依存しすぎないようにするには?

 マンネリ化とは、「未知の環境」が「既知の環境」に変化した状態といえるでしょう。最初は「イグニションキー」として機能していた「未知の環境」という刺激が、徐々に弱まり、最後にはアクションを引き起こせなくなってしまうのです。

 例えば、「カフェで仕事をしてみたら非常にはかどった」という体験は、以後「環境ドリブン」として息づくようになります。ところが、あまりに頻繁にカフェで仕事をしていると、「カフェに行きさえすれば、仕事は必ずはかどる」という過剰な期待をするようになります。

 実際には、カフェという環境に慣れれば慣れるほど、カフェの「神通力」は衰えていきます。そして「カフェに来ているのに、いっこうに仕事がはかどらない。なぜだ?」と悩むことになるでしょう。

 これは、「カフェに行く」という環境の変化を自分でコントロールできてしまうからです。もし、出先でたまたま時間が余ってしまったので、仕方なくカフェに入って仕事をした、というのであれば、おそらく「思わぬ成果」が得られるでしょう。不意に訪れたカフェという環境は「想定外」の刺激となって、一時的であれマンネリを打破してくれるからです。

 問題編では、「新入社員が入ってくる」という新しい環境が提示されています。これは、自分ではコントロールできない環境の変化だといえます。

 このような時は、これまでのやり方を頑なに守るよりも、新しいやり方を試してみるチャンスです。個人差はあるとは思いますが、たいていの人は、「新入社員が入ってくる」となれば、

  • 初心を思い出す
  • 「いいところを見せなくては」と張り切る
  • 何やらテンションが上がる

 などと、ポジティブな期待を抱くからです。

 外部環境の変化がなくても、自ら変化を起こす方法もあります。例えば、繰り返し行っている仕事について、以下のような制約を設けてみます。

  • 30分かかるところを20分で終わらせるには?
  • もっと楽に終わらせるには?
  • 自分でなくてもできるようにするには?

 あるいは、いつも使っているアプリケーションについて、

  • 実はストレスに感じている機能は?
  • ほかのアプリケーションで便利に感じている機能は?
  • 同じことを別のアプリケーションでできないか?

 など、自分のパターンを見直すための質問を用意して、時間を決めて自問してみるのです。その結果、もし変更の余地が見つからなかったとしても、それはそれで意味があります。改めて自分のパターンに対して自信を持つことができる、というメリットが得られるからです。

 つまり、自分で作った、自分にとっては居心地の良い「環境ドリブン」をいったん忘れて、別の「環境ドリブン」を作り出すことを試みるわけです。こうすることで、外部環境に左右されることなく、常に一定の成果を出せるようになるはずです。

 自問を通して、自分が「ゆでガエル」になっていないかを定期的にチェックするとよいでしょう。

筆者:大橋悦夫

仕事を楽しくする研究日誌「シゴタノ!」管理人。日々の仕事を楽しくするためのヒントやアイデアを毎日紹介するほか「言葉にこだわるエンジニア」をモットーに、Webサイト構築・運営、システム企画・開発、各種執筆・セミナーなど幅広く活動中。近著に『スピードハックス 仕事のスピードをいきなり3倍にする技術』『「手帳ブログ」のススメ』がある。


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