第2回 成長の時期は内省を深めるとき「成功の時期」と「成長の時期」

人生には、うまくいく「成功の時期」と、願った通りにはいかない「成長の時期」がある。今回は、成長の時期にはどんな意味があって、どう活用すべきかを紹介する。

» 2007年07月23日 16時46分 公開
[平本相武(構成:房野麻子),ITmedia]

 前回は、目標を持って集中して取り組んで、そしてそれがうまくいく「成功の時期」についてお話しました。

 しかし、すべての人間がこのようにうまくいっているかというと、そうではありません。うまくいっているときと、うまくいっていない時期があります。IT業界でもそうでしょうが、最初は羽振りが良かったのに数年したら会社がなくなっていた……なんてことがありますよね。それは成功の時期には乗れたけれど、次の「成長の時期」をちゃんと乗りこえられなかった会社、または人の例です。あの人はプロジェクトを何本も成功させたのに、マネージャーになった後いつのまにか消えて、そのうちほかの会社に行ったけれど、それっきり行方が分からなくなっちゃった──みたいな人ですね。そういう人は、成功の時期と同じノリで成長の時期を過ごしてしまったのです。これはうまくいきません。

 どんな人にも、大きな波か緩やかな波かはそれぞれですが、この成長の時期というのがあります。これは悪くいうと、物事があまり思い通りにいかない時期です。でも、裏を返せば、自分の学びや気付きの時期です。そして、精神的に強くなる時期です。成功の時期は思ったら思った通りに進むので、弱い人でもうまく行くのです。こうしたいと願って、いろいろがんばったらできた! という感じで努力が報われるので、弱い人でもそうそうへこたれません。しかし成長の時期は、何かをしたいと思ってもできない、こうしてもできない、ああしてもうまくいかない。物事がなかなかうまくいかなくて打たれ続けている時期でもあります。打たれ続けるとグロッキーになるけれど、打たれ過ぎないように、かわしたり守備をうまくしたりする時期でもあります。

 成長の時期でよく言われるのは、「自分の人生には意味がある」「どんな出来事にもきっとプラスの意味がある」とか、「もっと大きなものにゆだねなさい」というもの。「自分でやろうとするな」とか「刃向かおうとするな」とも言われますね。

 この時期は、自分がこんな仕事をしたいとか、自分が何のために生きているのか、と考えるよりは、例えば「世の中のどこかで自分を待っている人がきっといる」とか、「どうやったら自分を必要としている人たちに出会って、その人たちに自分にしかできない貢献ができるだろうか」というように考える時期です。

 だから、ちょっと哲学的だったり宗教的だったりします。弱い時期で藁にもすがりたい思いなので。こういうときに妙な宗教やカルトに引っかかってしまうことがありますので気をつけてください。同時に、本を読んだり、内省したりすることは続けてほしい。

 成功の時期はアクションの時期なのに対して、成長の時期はフィーリングの時期です。それも、ノリノリのフィーリングとは限りません。ちょっと寂しい、孤独感を感じる時期です。「こんなにがんばってきたのに、部下が全然オレのことを認めてくれない」みたいなこともあるわけです。一応達成はしているのに、このままでいいのかな、と感じる時期です。ちょっとうつ病みたいな感じがするかもしれませんが、そうではなくて、今まで自分がやってきたことを振り返っているのです。

 成功の時期は、前を見て目標実現、また前を見て目標実現、と進んできたのに対し、成長の時期は、ちょっと立ち止まって、後ろを振り向いて、今までやってきたことを見てみよう、という感じです。ただ、分析的に評価するとか、それを基にしてどうやって未来を成功させるかと考えるのはナシです。「がんばったけれど、あのとき家族を犠牲にしたな」とか「ちゃんと子供に言えなかったな」とか「確かにあのとき半年間、カップラーメンばかり食べて、自分の身体のことは考えなかったな」など、内省を深める時期です。

 こうすると結果的にバランスが取れて、未来に成功するのですが、これを未来に成功するための手段として捉えてしまうと、またワナに陥ってしまいます。

 成功の時期がフォーカスの時期に対して、成長の時期はバランスの時期です。ないがしろにしていた自分の趣味をもう1回やってみる、サーフィンをもう一度やってみるとか、ウクレレを習ってみようなど、自分に関することでもいいし、そういえば最近デートらしいデートもしていなかったから妻と映画にでも行こうかとか、子供を遊園地に連れて行こうとか、日曜日の午前だけは散歩の時間を作ろうとか……そういう時間を取っていく必要がある時期ですね。

出来事の意味を捉える

 成功の時期には出来事をコントロールするのに対して、成長の時期は自分の選択をコントロールします。出来事自体をコントロールしようとするのではなくて、その起こっていることの意味を捉えようとします。

 例えば、この時期にいきなり妻から離婚してくれ、と言われるようなこともあるんですね。「俺はお前のためにこんなにがんばってきたのに、なんで捨てられるんだ」と思いたくなるんですが、「ちょっと待て」となる。この意味って何だろう。そうか、オレはこいつのためにがんばってきたと思っていたけれど、実は自分が出世したいためにがんばったんじゃないかな、とか、ただ自分が仕事に夢中になっていただけじゃないかな、とか、自分が面白いからやっていたのに家族のためにと言っていたんじゃないかな、という感じで、そこから意味を受け取ろうとします。

 どんな意味を受け取るか、その意味をどう受け取るかによって、自分の人生の選択が変わってきますね。「オレってツイてないダメな人間だ」という意味で受け取ってしまうと落ち込んでしまいますが、「何かもっと大きな存在が、もう少し近くを見ろよとか、家族や周りの人を大事にしろよと言っているのかもしれない」というくらいの意味で受け取れれば変われるかもしれません。成長の時期は出来事の意味づけを自分で変えて、選べます。

 ということで、実はあまり良いことじゃないことが起こるわけですね。成功の時期は、○○したい、できた! ××したい、できた! というのに対して、成長の時期は、○○したい、うまくいかない、××したい、うまくいかない、となるんです。でも、それを悪いことだと取らないで、信号だと受け取ってほしいんです。歯が痛いのは、自分を苦しめるために痛いのではなくて、治療したほうがいいよと合図を送ってくれているんですね。それを我慢したり、鎮痛剤で無理やりごまかして歯医者に行かないでいると、歯がボロボロになるわけですね。痛みは、歯を治療したほうがいいよ、治療したほうがいいよ、と信号を送ってくれているのです。それと同じで、友だちと喧嘩したり、恋人に振られたり、家族とうまく行かなかったり、子供が非行に走ったり、みたいなもので信号が出たとしても、それはオレにとってどういう意味があるんだろうと考えてほしいのです。

 成長の時期は、願ったことが願った通りには手に入らないけれど、それよりも深い価値や意味を見出し、気づきや学びを深められる時期です。竹でいうと節の部分です。一見、成長が止まっているようですが、その節がなかったらあんなに高くは伸びられないですね。いったん、成長が止まって尻込みしているように見えるけれど、それがあるから伸びることができるのです。

 季節でいうと、冬の時期です。冬というと悪いイメージを持つ人もいるかもしれませんが、夏ばかり続いていたら、夏バテして疲れてしまう。冬という、自分の鋭気を養う時期も必要かもしれません。

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ピークパフォーマンス 代表取締役

平本相武(ひらもと あきお)

 1965年神戸生まれ。東京大学大学院教育学研究科修士課程修了(専門は臨床心理)。アドラースクール・オブ・プロフェッショナルサイコロジー(シカゴ/米国)カウンセリング心理学修士課程修了。人の中に眠っている潜在能力を短時間で最大限に引き出す独自の方法論を平本メソッドとして体系化。人生を大きく変えるインパクトを持つとして、アスリート、アーチスト、エグゼクティブ、ビジネスパーソン、学生など幅広い層から圧倒的な支持を集めている。最新著書は「成功するのに目標はいらない!」。コミュニケーションやピークパフォーマンスに関するセミナーはこちらから。


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