「発想悪循環症候群」患者にならないために──その傾向と予防樋口健夫の「笑うアイデア、動かす発想」

長年「アイデアマラソン」を研究している筆者が発見した“症候群”がある。それは、同じ発想がぐるぐる頭の中を巡る「発想悪循環症候群」である。この症候群の傾向と予防法とは──。

» 2007年07月27日 19時48分 公開
[樋口健夫,ITmedia]

 長年「アイデアマラソン」を研究している筆者は、ある症状を発見した。人間の脳は、実にさまざまなことを毎日思い付いている。しかし脳は、せっかく思い付いたことをすぐに忘却しようともするのだ。しかも、たちが悪いことに思い付いたことすら忘れるのである。

 筆者は、この症状に「発想悪循環症候群」と命名した。本当に根こそぎ忘れるもので、同じ発想が何度も現れては、周囲に「お前、それ話すの3回目だぞ」とか「毎回同じことばかり言って」とか言われることになるから困る。これが恐ろしい「発想悪循環症候群」だ。同じ発想に脳の“キャッシュメモリ”が占有されてしまうのだ。

 実際、この症候群にハマると気の毒だが本当にマヌケに見える。ほとんどの場合、言われた本人は言ったことをまったく覚えていないから、(1)自分が健忘症になったと真剣に心配する(2)同じ発想だと指摘する相手が、悪意で自分を貶めようとしていると考えてしまう。

 症候群“患者”が会議や打合せの時に発言し始めると、「君、その話は分かったよ。前にも聞いた聞いた。ご苦労さま」と途中で打ち切られてしまうケースも少なくない。それでも新人だったらその場で注意されるからまだいい。何とか気付けば“社会復帰”の道もある。役職が上の人にだと会議中に指摘するわけにもいかない。会議後、部下たちが喫茶店で「うちの部長、ありゃ相当もうろくしてきたな。同じことばかり言っている」となる。

 だが覚えておいて欲しい。この症候群には誰でもかかる恐れがあるのだ。年を取って物忘れが激しいからということではないのである。若い新人や2年目、3年目でも注意しないといけない。

 それに、誰もがみんな自分だけは物忘れしないと思っている。「いったん自分で言ったことを忘れるわけがない」なんて思っているから、繰り返し同じことを言われると、ほとんどが相手にバカにされているように思ってしまう。つまり悪意に取るわけだ。

 さらに症状が悪化すると絶対に覚えていなければならないものもつまらない発想と一緒に消し去ってしまうようになる。慢性化すると最悪。自分で自分を信じられなくなることも起こる。

 この症候群は人間である限り、完全に防ぐことはできない。しかし、最小限にする方法がある。それがメモであり、ノートであるわけだ。いったん書き留めたことを読み返すことで、自分が思い付いたキャッシュメモリの内容を長期記憶に移行できる。メモやノートを使うことで「発想悪循環症候群」の症状は劇的に改善するのである。

 さらに(1)常に思い付いたことをメモとノートに書き、それらを見直す習慣を付ける(2)会議で発言する前に、発言内容のキーワードを1度ノートに書き留めて発言する──ようにしよう。書くことが習慣付けられると、脳の短期記憶の容量はかなり大きくなる。同じ頭脳を所有していても、いかにも賢く見える効果があるといってもいい。実は、これこそが筆者の主張する「アイデアマラソン式ノート術」の基本コンセプトでもあるのだ。

今回の教訓

書くことで脳のチカラを開放せよ。発想の“吹き溜まり”にするべからず──。


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著者紹介 樋口健夫(ひぐち・たけお)

1946年京都生まれ。大阪外大英語卒、三井物産入社。ナイジェリア(ヨルバ族名誉酋長に就任)、サウジアラビア、ベトナム駐在を経て、ネパール王国・カトマンドゥ事務所長を務め、2004年8月に三井物産を定年退職。在職中にアイデアマラソン発想法を考案。現在ノート数338冊、発想数26万3000個。現在、アイデアマラソン研究所長、大阪工業大学、筑波大学、電気通信大学、三重大学にて非常勤講師を務める。企業人材研修、全国小学校にネット利用のアイデアマラソンを提案中。著書に「金のアイデアを生む方法」(成美堂文庫)、「できる人のノート術」(PHP文庫)、「マラソンシステム」(日経BP社)、「稼ぐ人になるアイデアマラソン仕事術」(日科技連出版社)など。アイデアマラソンは、英語、タイ語、中国語、ヒンディ語、韓国語にて出版。「アイデアマラソン・スターター・キットfor airpen」といったグッズにも結実している。アイデアマラソンの公式サイトはこちら


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