“習慣性瞬発憎たれぐち発言症”にご注意樋口健夫の「笑うアイデア、動かす発想」

結婚してから35年以上たった筆者のような夫婦では、相手の気分がどうなるかを全く無視して、ずべずべ言ってしまうことがある。夫婦ならまだいいが、これと同じことが会社でも起こるのだ。

» 2007年11月01日 17時57分 公開
[樋口健夫,ITmedia]

 いつだったか筆者は夫婦で食事を楽しんでいた時のことだ。ワインか何か飲みながら、珍しく気分よく対話していた。ヨメサンが話し、次に筆者が話し始めたら、ヨメサンは筆者を遮って、「もう少し静かに話して。お願い」と顔をしかめた。

 結婚してから35年以上たった筆者のような夫婦では、相手の気分がどうなるかを全く無視して、ずべずべ言ってしまうことがある。「普通に話しとるぎゃ。お前なぁ、他の人と話してるときには、そんなこと言わないだろう」と筆者も生来の方言を交えて反論。ヨメサンも「ほかの人は、あなたの様に大声出さないわよ」と応酬してくる。

 自分のおならが臭くないのと同じように、自分が話している声は聞こえないのか、筆者が話していると、必ず「うるさい」という。そのたったひと言でそれまで3時間半ぐらいの気分のよさがぶっ飛んで、その後2時間くらい人生が暗くなってしまう。

 瞬間ムカッとするが、長年ヨメサンに鍛えられてきた筆者は、ぐっと我慢。話し合いを急きょ終えて、残りの1日が過ぎていく。その代わりにヨメサンに渡すはずの、誕生日祝いや結婚記念日の贈り物などに当然響いてくるわけだ。わっはっは。

 ……ゴホン、さて意地の悪い話はやめにして真剣に分析してみよう。人を落ち込ませるような余計なひと言がどうして出てくるのだろうか。長年の研究の結果、筆者のヨメサンは「習慣性瞬発憎たれぐち発言症」にかかっていることが分かった。

習慣性瞬発憎たれぐち発言症とは

 習慣性瞬発憎たれぐち発言症とは、余計なひと言で相手の気分をズタズタすること。発症者は、どうやら相手の気分を害したことに、そのひと言を言った後になって気付くらしい。言い換えれば、普段から何も考えずに自然と憎たれぐちを言う習慣が付いているのだ。

 少々ヨメサンを弁護すると、筆者も同じように憎たれぐちを言っているのだろう。これはお互い様だ。筆者の“落ち度”は、お互いに応酬する負の連鎖を断ち切れず、こうした習慣をヨメサンに付けてしまったことかもしれない。

 ただし、この病気は多かれ少なかれ、どこの夫婦にも生じるもので、結婚後約3年くらいが最初の発症期である。わが家のように、両方が意地を貼り始めると事態は悪化する一方だ。それでも夫婦間の症状であれば、普通は夫婦以外の人に対しては憎たれぐちをたたかない。きっと外でヨメサンは奥様連中に「あなたのように優しい人に、何てひどい態度のご主人なの」とでも慰められているのではないか。

会社での憎たれぐちにはリスク

 さて、これと同じことが会社でも起こる。「聞いてください。ようやく注文をもらいました」。喜んで報告してくる部下に対して、こんなことを言う上司がいる。「それだけ何回も通えば注文だって、取れるのが当たり前じゃないか。何回訪問しているんだ。どれだけ時間を掛けているんだ」

 憎たれぐちをたたくのは、上司だけではない。新人のころは「将来、君はどんな風に仕事をしたいんだ」と問われて、「はーい、先輩のように自分1人で、仕事を始めから、終わりまでできる人になりたいです」と可愛いいことを言っていた後輩も3年目には変貌を遂げる。

 「○○君のお客の資料をコピーしておいたよ。はい」と、先輩が資料を渡すと「あの……、私はいつも1枚の用紙に2画面分、さらに両面カラーコピーの資料を作るんですが。それでお願いします」と入社3年目が答える。「ああ分かったよ。作ってやろうじゃないか。その代わりに立派な仕事をしろよな」

 その後、仕事の成果で先輩は後輩社員をシゴいた。この先輩は、飲みに行くたびにこの話を50回はしている。

 ついつい反論したり、皮肉を言ってしまったり、揚げ足と取られる発言をしてしまったり、嫌味を言ってしまう。悪気は無いが口にしてしまう「憎たれぐち」が、会社での人間関係をズタズタにするのだ。

 会社の中には、このような嫌なことをいう上司、可愛くない部下がどこかにいるものだ。会社のような社会的公開場所において、皮肉を言ったり、嫌味を言ったりすると、数十年怨みに思われることも起こりうる。(いつか、必ず仕返ししてやる)と思った同僚が“浅野内匠頭”になって、“松の廊下の刃傷沙汰”に及びかねないし、(やつの言うことは、絶対通さない)というようにこじれて、徹底的に干されてしまうことも起こりうるのだ。

 そんなことが、何気ない皮肉から起こっているということを、言った本人が自覚しないことが非常に多いのである。

解決法は?

 さて、この症状はどのように直せばよいのだろうか。まず言えることは、よく考えて発言することだ。相手の気持ちも汲んでみよう。

 こう言うのは簡単だが、上司も部下も一緒に仕事をして長い付き合いになると、遠慮がなくなる。そんな時には必ず、このような病気に掛かっているのではないかと、自分で自分の心に問いかけてみることだ。特に上司はパワハラならぬ“ニクハラ”で責任を取らされる、なんていうことにもなりかねない。同じ職場で第三者の意見を聞いてみるのもよいだろう。

 大事なことは気楽に「憎たれぐち」について話ができる雰囲気。「あ、また『憎たれぐち』を言った」と、正面切って言えることである。そうすれば憎たれぐちもなくなるし、全員の気分がよくなる――というわけだ。それでも収まらない場合は、言ってしまった人がドトールでコーヒーを1杯おごる罰ゲームを導入してみてはどうだろう。

 もちろん率直な意見に対して、カッカしていたのでは話にならないが。

樋口流“ニクハラ”解決法
No. 解決法
1. よく考えて発言すること。相手の気持ちを汲もう。
2. 自分で自分の心に問いかけてみる。
3. 同じ職場で第三者の意見を聞いてみよう。
4. 「憎たれぐち」について話ができる雰囲気を作ろう。
5. ドトールでコーヒーを1杯おごる罰ゲームを導入してみる。

今回の教訓

現代版「忠臣蔵」――。切るのも切られるのも無益なり。


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著者紹介 樋口健夫(ひぐち・たけお)

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 1946 年京都生まれ。大阪外大英語卒、三井物産入社。ナイジェリア(ヨルバ族名誉酋長に就任)、サウジアラビア、ベトナム駐在を経て、ネパール王国・カトマンドゥ事務所長を務め、2004年8月に三井物産を定年退職。在職中にアイデアマラソン発想法を考案。現在ノート数338冊、発想数26万3000個。現在、アイデアマラソン研究所長、大阪工業大学、筑波大学、電気通信大学、三重大学にて非常勤講師を務める。企業人材研修、全国小学校にネット利用のアイデアマラソンを提案中。著書に「金のアイデアを生む方法」(成美堂文庫)、「できる人のノート術」(PHP文庫)、「マラソンシステム」(日経BP社)、「稼ぐ人になるアイデアマラソン仕事術」(日科技連出版社)など。アイデアマラソンは、英語、タイ語、中国語、ヒンディ語、韓国語にて出版。「感動する科学体験100〜世界の不思議を楽しもう〜」(技術評論社)も監修した。「アイデアマラソン・スターター・キットfor airpen」といったグッズにも結実している。アイデアマラソンの公式サイトはこちら


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