第15回 教えるための「道具」に気を使っていますか?実践! 専門知識を教えてみよう(4/4 ページ)

» 2008年08月01日 08時30分 公開
[開米瑞浩,ITmedia]
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そしてスピードアップを忘れずに

 評価、イメージの次に大事な要素、それは「スピード」です。

 「トライアルから学ぶ学習のサイクル」は、何しろ「サイクル」なので繰り返し行わなければなりません。そのスピードは可能な限りで早いほうが都合がいいのです。そのためには、「トライアル」自体を注意深く設計し、削れる要素は大胆に切り捨てる、といった発想も必要になってきます。

 2005年にテレビドラマにもなり、ヒットした受験マンガ「ドラゴン桜」では、数学の勉強法として次のような方法を紹介していました。

  • 問題と解答をたくさん用意する。
  • まず問題を見て、頭の中で考えて3分以内に解法をイメージする。
  • 3分経ったら「問題を解かずに」解答を見て、解答の冒頭部分が合っていたらその問題は出来たことにして次へ進む。
  • 合っていなければ解答をじっくり読む。

 これに近いことを実は私自身も過去にやっていたのですが、ドラゴン桜で改めてこれを見た時、昔は無意識にやっていたこの方法が、あまりに理にかなっているのでつくづく関心したものです。実際、数学の基本的な解法を学ぶためにはこれは理想的な方法です。なぜこれが理想的なのかというと、

  • まずは「イメージを作る」ことを優先している。3分という時間もちょうどよい。
  • 次に「評価」の方法も合理的。数学の場合、冒頭が合っていれば残りも解法としては合っている場合が多いため。
  • 3番目に、できるに決まっていることはやらずに時間を節約し、その分、考える問題数を増やしている。

 以上、イメージと評価とスピードという3つの側面がすべてきっちりハマった理想的なものなのです。特に3番目の「できることはやらない」という割り切りは注目に値します。数学の場合、これによって大幅に時間を節約できることが多く、トライアルのサイクルが早くなるため、その分学習範囲を広げることができるからです。

 逆に、理科実験の場合、「実験器具が少ない」という状態は「トライアルのサイクルを大幅に延ばしてしまう」結果になるのは言うまでもありません。ここまで、格闘技経験者N氏、松坂投手、「ドラゴン桜」などいくつかの例を紹介してきましたが、ここで改めて今回のタイトルを問い直してみましょう。

  • 教えるための「道具」に気を使っていますか?

 キックミットという「道具」は当然ですが実戦では使いません。ということはこの「道具」は指導用として考案しなければ使えないわけです。松坂投手の「ボール1個」なら実戦でも使いますが、しかしそれをホームベースに置くという運用は実戦ではありえないものでした。ドラゴン桜の「数学の問題と解答」も、その運用方法が非常に独特なものでした。

 「道具」を適切に選択し、その運用方法を工夫することで学習の効果が上がる場面は非常に多いものです。ぜひ意識的に「教えるための道具」を考えるようにしてください。

 そして新しい「教える道具」やその運用方法を考えるにあたっては、「トライアルのサイクル」という、学習をする時にも共通の構造を意識しておきましょう。

  • その道具は「評価」の精度を上げるものか?
  • その道具は「イメージ」の明確化を助けるものか?
  • その道具は「サイクル」のスピードアップを図るものか?

 どれか一点でもYESであれば、使える可能性は十分にあるのです。

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筆者:開米瑞浩(かいまい みずひろ)

 IT技術者の業務経験を通して「読解力・図解力」スキルの再教育の必要性を認識し、2003年からその著述・教育業務を開始。2008年は、「専門知識を教える技術」をメインテーマにして研修・コンサルティングを実施中。近著に『図解 大人の「説明力!」』


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