今回の場合、陽子は最後にいい案を思いついた。バラバラな話が、彼女の頭の中でアイデアの方向に収束されていったのだ。そして話し出してから15分以上経過した時、1つのアイデアを思いつく形で実を結んだ。
一方、陽子の話をひたすら聞いたのは大輔である。だから陽子は、途中で話をさえぎられることなく、思いつくまま話すことができたからこそ、1つのアイデアにたどり着けたともいえる。
もし大輔が「結論は?」と急いていたらどうなっただろう。
理路整然と物事を系統立てて考えることは、物事を簡潔にまとめることにもつながる。その一方で、直感がとらえた内容など、系統外の内容は弾いてしまう恐れがあるのだ。だから女性脳をフル回転し、常に直感で情報をとらえている女性は、理論を強いられるとせっかくの直感力が働きにくくなると、黒川さんは指摘する。
「一見バラバラで脈略のない話に思えても、それは直感でとらえた内容。そこから発展して120%の奇跡を起こす可能性を秘めているんです」(黒川さん)。理屈ではなく直感だからこそ、突拍子もないアイデアを生むことがある。それが「120%の奇跡」なのだ。
もし大輔が“無駄話”に腹を立て、陽子が話している途中で「君の話はまとまりが悪い!」と否定しても同じことだ。陽子は意気消沈するか、「そんな言い方しなくたって」と腹を立てるだろう。2人の間には不穏な空気が流れ、アイデア会議どころではなくなる。
話をさえぎらず、女性の直感力を自由に発揮させた。この意味では大輔が陽子に対して取った行動は適切だった。
だが、たとえ行動が適切でも、いやいや聞くのとワクワクしながら聞くのでは全く違う結果をもたらすこともある。いやいや聞く時間は苦痛だから、話の内容が頭に入ってきづらい。逆に「次はどうなる?」とワクワクしながら聞けば楽しいから、内容も自然に入ってくるだろう。
「男性は女性の長い話を我慢するのではなく、ああ、この女性は今、直感力をチャージしてるんだ、と思えばいいんです」(黒川さん)。大輔は、もっと心にゆとりを持ち、「陽子は今、直感力をいチャージしてるんだな。ここからどんな突拍子もないアイデアが生まれるんだろう?」と、楽しみながら聞けばいいのだ。
話の長さで大輔をげんなりさせた陽子は、どんな態度で臨めばよかったのだろう。
彼女が大輔にカフェの話をしたのは理由がある。実は頭に引っかかっていたのだ。だからアイデアの話を振られた時、思わず話したのである。
ところが陽子は、「気になることがあったから話します」とは大輔に一言も告げていない。ここがよくなかった。なかなかゴールが見えず、「いったいどこまで話すんだ? どこへ行くんだ?」と、大輔を余計イライラさせてしまったからだ。
男性脳はダラダラした会話を嫌い、結論を最初に求める。そんな認識を持って臨むべきだと黒川さんはアドバイスする。「話し始める前に、これからゴールのない長旅に出ますよ、という断りをキチンと入れてあげましょう」(黒川さん)
「課長、まだ結論は出てないんですが、なぜか引っかかったことがあるので、話してもいいですか?」。こんなふうに最初に断っておけば、あてのない長旅も付き合いやすくなる。
以上から、異性間ビジネス会話で押さえておくべき3つのポイントは次のようになる。
1.ダラダラ会話はアイデアの宝庫。聞く側は結論を急いたり、話を否定したりしない。
2.ダラダラ会話中、聞く側は「この人は今、直感力をチャージしている」と、ワクワクしながら聞く。
3.話す側は「まだ結論が出てないので、思いつくまま話していいですか?」と、聞く側に最初に断る。
今回は聞く側が男性、話す側が女性の軽いミーティングを例にとり、女性脳と男性脳の立場から解説した。ただポイント自体は、異性間に限らずどんなビジネス会話にも当てはまるものばかり。職場ですぐ活用してみよう。
次回で最終回。残業を振られた時など、引き続きビジネスでの会話術を見ていきます。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.