そんなにまでしてつぶしたいのか?大口兄弟の伝説(2/2 ページ)

» 2008年11月19日 13時35分 公開
[森川滋之,ITmedia]
前のページへ 1|2       

 「なあ、この話、みんなにどうやって伝えたらいい?」

 アネゴはようやく和人の顔色が悪い理由に思い当たった。和人は部下にこの話を伝えるのが辛いのだ。

 「私がまたハッパをかけましょうか?」

 「それはありがたいが、先月アネゴがみんなを集めて演説してくれたことに関しては、ぼくは所長失格だったなと思ってるんだ。今度はちゃんと自分から説明したい」

 「なら、もうみんな大丈夫ですよ。きっと逆にやる気になります。そのまま伝えたらいいと思います」

 「そうか……。よし、決心がついた。ありがとう」

 アネゴに励まされてばかりだ。みんなも影の所長はアネゴだと思っていることだろう。苦笑する和人をアネゴは不思議そうに見ていた。

 和人は営業部員の直行直帰を許している。エリアが広いので、みんな車で客先を回っている。営業所に寄ったり戻ったりしていると場所によっては2時間ぐらいの時間のムダが発生することがある。その分ゆっくり休んでもらったほうが、体力的にもモチベーション的にもよろしいというのが和人の考えだ。全員がそろうのは、原則として毎週月曜日の営業所会議だけである。

 しかし、この日の和人は全員に夕方までに戻ってくるように指示した。幸い遠くへ行っている部員はいなかった。

 夕方6時ちょっと過ぎに全員が戻ってきた。

 和人は、今朝田島に言われたことを、モノマネを交えて、正確に全員に伝えた。

 今回は泣き出す者もいなかった。それどころか和人のヘタクソなモノマネに笑っている者までいる。みんなたくましくなったものだ。気が小さいのは、どうやら自分だけらしい。

 タカシが突然立ち上がって、大声で言い放った。「要するに1位になればいいんだろう。何本売ればいいんですか?」

 「ここ2カ月の結果と、今月の中間結果から考えると、1500回線は必要だろう」。和人は冷静に自分の分析結果を伝えた。

 「そんなに売ってるところがあるんですか?」。マザーが驚いて聞く。

 「東京南が今月このままいくと1000回線は契約しそうだ」

 「だったら、1100ぐらいでいいんじゃないですか?」イケメンが言う。

 「コンテストとなると、今まで暖めてきた案件を無理やり取りに行くところもあるだろう。1500は欲しいな。いや2000回線台の争いになるかもしれない」

 「だったら、楽勝じゃん。オレらが2000とって来るから」。ショージがノー天気さあふれる発言をする。

 「ああ。期待してるぞ。それで余裕で1位だ」。和人は内心とは裏腹に答えた。

 6月25日の時点で、月の目標本数に達したので、和人は全員に残りの契約は来月に回すように指示した。来月に備えて少しでも温存しておきたい。この程度の操作は、ほかの営業所でもやっているだろう。余裕のある営業所なら数100回線の貯金があるかもしれない。営業コンテストのことは、すでに全営業所に通達されている。戦いはもう始まっているのだ。

「今度という今度はダメかもしれない」はこちら

出版・連載の夢実現セミナー

 出版したい、連載を持ちたいと考えるSEやITコンサルタントの方へ――。出版社から依頼されるほどの実績もなく、編集者にコネもなかった講師が、なぜ出版できたのか? さらに出版後増刷もかからないうちに、次々と企画が通り、2冊目、3冊目を出せたり、本誌Biz.IDや日経SYSTEMSに連載を持てるようになったのはなぜなのか?

 これらの秘密をすべて公開します。

 出版・連載のための3つのハードルとは何か? それをすべてクリアできるノウハウとは?

→興味のある方はこちらへ
※実現のためのアフターフォロー付き!

著者紹介 森川“突破口”滋之(もりかわ“とっぱこう”しげゆき)

 大学では日本中世史を専攻するが、これからはITの時代だと思い1987年大手システムインテグレーターに就職する。16年間で20以上のプロジェクトのリーダー及びマネージャーを歴任。営業企画部門を経て転職し、プロジェクトマネジメントツールのコンサル営業を経験。2005年にコンサルタントとして独立。2008年に株式会社ITブレークスルーを設立し、IT関係者を元気にするためのセミナーの自主開催など、IT人材の育成に取り組んでいる。

 2008年3月に技術評論社から『SEのための価値ある「仕事の設計」学』、7月には翔泳社から『ITの専門知識を素人に教える技』(共著)を上梓。冬には技術評論社から3冊目の書籍を発売する予定。


前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ