「なあ、この話、みんなにどうやって伝えたらいい?」
アネゴはようやく和人の顔色が悪い理由に思い当たった。和人は部下にこの話を伝えるのが辛いのだ。
「私がまたハッパをかけましょうか?」
「それはありがたいが、先月アネゴがみんなを集めて演説してくれたことに関しては、ぼくは所長失格だったなと思ってるんだ。今度はちゃんと自分から説明したい」
「なら、もうみんな大丈夫ですよ。きっと逆にやる気になります。そのまま伝えたらいいと思います」
「そうか……。よし、決心がついた。ありがとう」
アネゴに励まされてばかりだ。みんなも影の所長はアネゴだと思っていることだろう。苦笑する和人をアネゴは不思議そうに見ていた。
和人は営業部員の直行直帰を許している。エリアが広いので、みんな車で客先を回っている。営業所に寄ったり戻ったりしていると場所によっては2時間ぐらいの時間のムダが発生することがある。その分ゆっくり休んでもらったほうが、体力的にもモチベーション的にもよろしいというのが和人の考えだ。全員がそろうのは、原則として毎週月曜日の営業所会議だけである。
しかし、この日の和人は全員に夕方までに戻ってくるように指示した。幸い遠くへ行っている部員はいなかった。
夕方6時ちょっと過ぎに全員が戻ってきた。
和人は、今朝田島に言われたことを、モノマネを交えて、正確に全員に伝えた。
今回は泣き出す者もいなかった。それどころか和人のヘタクソなモノマネに笑っている者までいる。みんなたくましくなったものだ。気が小さいのは、どうやら自分だけらしい。
タカシが突然立ち上がって、大声で言い放った。「要するに1位になればいいんだろう。何本売ればいいんですか?」
「ここ2カ月の結果と、今月の中間結果から考えると、1500回線は必要だろう」。和人は冷静に自分の分析結果を伝えた。
「そんなに売ってるところがあるんですか?」。マザーが驚いて聞く。
「東京南が今月このままいくと1000回線は契約しそうだ」
「だったら、1100ぐらいでいいんじゃないですか?」イケメンが言う。
「コンテストとなると、今まで暖めてきた案件を無理やり取りに行くところもあるだろう。1500は欲しいな。いや2000回線台の争いになるかもしれない」
「だったら、楽勝じゃん。オレらが2000とって来るから」。ショージがノー天気さあふれる発言をする。
「ああ。期待してるぞ。それで余裕で1位だ」。和人は内心とは裏腹に答えた。
6月25日の時点で、月の目標本数に達したので、和人は全員に残りの契約は来月に回すように指示した。来月に備えて少しでも温存しておきたい。この程度の操作は、ほかの営業所でもやっているだろう。余裕のある営業所なら数100回線の貯金があるかもしれない。営業コンテストのことは、すでに全営業所に通達されている。戦いはもう始まっているのだ。
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大学では日本中世史を専攻するが、これからはITの時代だと思い1987年大手システムインテグレーターに就職する。16年間で20以上のプロジェクトのリーダー及びマネージャーを歴任。営業企画部門を経て転職し、プロジェクトマネジメントツールのコンサル営業を経験。2005年にコンサルタントとして独立。2008年に株式会社ITブレークスルーを設立し、IT関係者を元気にするためのセミナーの自主開催など、IT人材の育成に取り組んでいる。
2008年3月に技術評論社から『SEのための価値ある「仕事の設計」学』、7月には翔泳社から『ITの専門知識を素人に教える技』(共著)を上梓。冬には技術評論社から3冊目の書籍を発売する予定。
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