パーソナルな海外進出 新ビジネスを考える編樋口健夫の「笑うアイデア、動かす発想」

どこに旅しても考えるのが、「この場所で起業できるか」ということ。カンボジアのアンコールワットを訪問したときに考えたのは、あんこの入った「アンコールワット・マドレーヌ」であった――。

» 2008年11月28日 13時09分 公開
[樋口健夫,ITmedia]

 筆者は2008年に入って、中国ベトナムフランス、ベルギー、アラブ首長国連邦、台湾、カナダと旅してきた。今年中に、あと2回は出かける予定なので、ほぼ毎月に近い。アイデアマラソンの講演などの仕事だけではなく、友人宅への訪問や、単なる観光の場合もあった。

 どこに旅しても考えるのが、「この場所で起業できるか」ということ。自分が20代や30代で、初めてこの場所に来たとして、

  1. この国から何を世界に輸出できるか
  2. この国で新しいビジネスをするなら何をするか
  3. この国の売り込みポイントは何か
  4. ここでいかに生活するか
  5. 言語を学ぶには難しいか
  6. この国の人と付き合うには何が大切か
  7. 日本との関係で何ができるか

 などを考えてしまう。

 1996年、ベトナムのハノイに駐在していた時に、隣のカンボジアのアンコールワットを訪問したことがある。現地の若者が運転するバイクをチャーターし、遺跡群を3日間走り回った。その時、運転していた若者と、アンコールワットで新しいビジネスを興すにはどうすればよいかを話し合ったものだ。

筆者が書いた、アンコールトムのラフ

 筆者が提案したビジネス企画案は、「アンコールワット・マドレーヌ」であった。アンコールワットには、工芸品の屋台がたくさん並んでいて、その中には木彫品も多い。

 アンコールワットが属するアンコール遺跡群の1つにアンコールトムがあり、その中には巨大な石の仏頭があるのだ。一度見たら一生頭に残るような強烈な存在感の仏頭である(最近は威張っているヨメサンを見ても、その仏頭を思い出すようになってきた)。

 まずは厚い木片に、そのアンコールトムの仏頭をいくつか彫る。それを型にして小麦粉とバターを使ってマドレーヌを焼くだけ。もしかしたら現在はそんな土産品があるかもしれないが、当時はなかった。仏様を食べるなんて罰あたりと言われるかもしれないが、仏と一体化するのである。

 できたマドレーヌは、近隣の観光ホテル試作品として数十個届けるのだ。小袋に入れて、「アンコール遺跡名物」とでも印刷してはどうだろうか? これが評判になれば型を増やしていかざるを得まい。夢は広がる。

 半年もたって、アンコールワット近隣の観光ホテルすべてで売られるようになると、アンコールワット・マドレーヌも本格化。そろそろコピー商品が増えるころだ。対抗策として、こちらは「あんこ入りアンコールワット・マドレーヌ」などを作ってさら事業を拡大しよう。賞味期限、脱酸素で長持ちするようにしよう――などなど。

 3年ほどで、カンボジア最大のお菓子会社に成長。6年で最大の食品会社に成長するという案はどうだろうか? 東南アジアでは小さい会社であっても、カンボジア一の会社である方が楽しい。鶏口牛後というではないか。


 アンコールワット遺跡のバンテアンスレイの石に座って、筆者は若者にマドレーヌの説明をしていた。「みんなと同じことをしていてはだめだ。何か考えて、新しいことを試みてごらん」。何でもいいから小さいことから始めて、それが当たれば、それを資産に次を試みればよいのだ。

 その若者がマドレーヌを作ったかどうかは知らない。だが、ベトナムでも、ネパールでも、インドでも、中近東でも、個人でスモールビジネスを開始して、コツコツと大きくしていくチャンスはいくらでもある。

 筆者のような海外を回ってきたビジネスパーソンが、世界中の国々の「小さなビジネス案」をたくさん集めて、個人による新規ビジネスを促進できるはず。そのための小さなファンドを設立してもいい。

 海外旅行をしている間のアイデアマラソンノートには、そういう発想を書くことが多い。面白くて新しければどんどん始めようとする米国だけでなく、中近東や中国を見ても新規ビジネスに対する視線は熱い。こうしたビジネス熱に日本人の勤勉さを組み合わせればかなり強力だし、それに現在の円高を加えれば鬼に金棒だ。それに日本でヒットしているスモールビジネスを海外に持ち運んでもいい。あくまで自己責任だが、かなり通用するのではないだろうか。

今回の教訓

あんこ入れたら「大仏焼き」っぽいのは内緒だ――。


著者紹介 樋口健夫(ひぐち・たけお)

 1946年京都生まれ。大阪外大英語卒、三井物産入社。ナイジェリア(ヨルバ族名誉酋長に就任)、サウジアラビア、ベトナム駐在を経て、ネパール王国・カトマンドゥ事務所長を務め、2004年8月に三井物産を定年退職。在職中にアイデアマラソン発想法を考案。現在ノート数338冊、発想数26万3000個。現在、アイデアマラソン研究所長、大阪工業大学、筑波大学、電気通信大学、三重大学にて非常勤講師を務める。企業人材研修、全国小学校にネット利用のアイデアマラソンを提案中。著書に「金のアイデアを生む方法」(成美堂文庫)、「できる人のノート術」(PHP文庫)、「マラソンシステム」(日経BP社)、「稼ぐ人になるアイデアマラソン仕事術」(日科技連出版社)など。アイデアマラソンは、英語、タイ語、中国語、ヒンディ語、韓国語にて出版。「感動する科学体験100〜世界の不思議を楽しもう〜」(技術評論社)も監修した。「アイデアマラソン・スターター・キットfor airpen」といったグッズにも結実している。アイデアマラソンの公式サイトはこちらアイデアマラソン研究所はこちら


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