不安を引きずらせないための切り替えトークプロ講師に学ぶ、達人の技術を教えるためのトーク術(2/3 ページ)

» 2009年03月10日 10時15分 公開
[開米瑞浩,ITmedia]

終わりと始まりを明示すること

 では、最後の(Z)から考えましょう。受講生に「じゃ、次いこ次!」と思ってもらうために必要な講師のトークとは、

  • 「はい、じゃ、次行きますね」

 以上、これだけ。なんのことはない、そのまんまですね。たったこれだけの単純な一言なんですが、大事なのはこれを、

  • ゆっくり、ハッキリ、力強く言う

 ことです。それによって、テーマBという新しいセクションが始まることに気持ちを切り替えさせられます。言わずに何となくBが始まってしまったり、小さな声でモゴモゴ言ったりしてはいけません。たったそれだけかよ、と思われるかもしれませんが、意外にその「たったそれだけ」ができないものです。馬鹿にせずにきっちりやりましょう。

 では次に(Y)、これも非常に単純です。「Aについてはこれで終わりだな」と思ってもらうために必要なトークとは……もうお分かりですね。

  • 「はい、じゃ、Aについてはこれで終わりです」

 以上、これだけ。やっぱりそのまんまです。(Z)と同じようにこれをゆっくり、ハッキリ、力強く言うことが大事です。それによって、テーマAの終わりを締めくくることができます。たったこれだけをきっちりやるようにしましょう。

 この(Y)と(Z)がAの終わりとBの始まりを明示するための基本のトークです。これがあることで受講生はいったんAを忘れてBに気持ちを切り替えられます。

 ……と言いたいところですが、この切り替えトークをうまく働かせるためにはその前にある準備をしなければなりません。それまでやってきたAを締めくくり、「ケリをつける」ことが必要なのです。それが(X)の部分です。例えばこんなトークになります。

  • 「以上、つまりAについては○○ということなんですね」(まとめの一言)

 「予防」の1-bの項で触れた「まとめの一言」をここで使うわけです。もちろんこれは本来は「不安」自体を発生させない「予防」のためのポイントなのですが、「消火」のためにも活きてきます。

予防と消火の意味を改めて確認すると

 もう一度、不安の「予防」と「消火」の意味を確認しておきましょう。

  • 予防:できるだけ「不安」が起きないようにする
  • 消火:たとえ起きても後続に引きずらせないようにする

 「予防」は「分からない……」という不安自体が起きないようにすることです。そのためには「分かった!」という実感を持たせるための仕掛けが必要であり、その1つが「まとめの一言」です。まとめの一言があると、受講生は、

  • つまりAはこういうことなんだな。うん分かった!

 と自分の理解を確認できます。

 それに対して「消火」は、簡単に言うと

  • 「あれ? Aが分かんないなあ……でももう終わりか。しょうがない、あとでもう一度見よう。取りあえず今はBのほうに集中するか!」

 という心理状態を作り出すことです。Aについて火が出た(分からないという不安が起きた)のを取りあえず消しておいて、気持ちの上で引きずらせずにBに集中させるのが「消火」なわけですね。取りあえず水をぶっかけて火を消すだけですから、Aの部屋の中は水浸しで煙も充満してるかもしれませんが、それらは「あとでもう一度見よう」と先送りにしてしまい、まずはBの部屋に移ってしまうことが大事です。

 もちろん、AとBが完全につながっていて、Aが分かっていないとBはもっと分からない、といった相互依存の高い内容のときはこの手は使えません。しかし、カリキュラムを注意深く設計すると、1つ1つのセクションの独立性を相当高くすることができるものです。その上で「まとめの一言」を使うと、「しょうがない、あとでもう一度見よう」という「取りあえず消火」の気持ちにさせやすいのです。

 集合研修の場合は、複数の受講生に対して一度に教えるわけですから、全員のペースを合わせなければなりません。すべてのセクションについて、全員が完璧に分かるまで次に進まない、というのは現実的には不可能です。たとえ教材の出来が非常によかったとしても、個人差とかちょっとした勘違いとかで「あれ? 分からない……」と思ってしまう受講生は必ずいます。「消火」が必要なのはそのためなのです。

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