これは、職場でも全く同じことが言えます。
周りの同僚や部下に行動を変えてほしいとき、一般的には、普通の警察官と同じように「禁止(否定)+命令」を使うことが多いでしょう。例えば朝、遅刻しがちな同僚や部下がいるとき、次のように伝えます。
「○○さんて、いつもギリギリに会社に来るね。そういうのってよくないんじゃない? 少なくても5分前に会社に着いているのが社会人としてのルールでしょ?」
ここで、DJポリスのように「合わせる+導く」を意識すると、次のようになるでしょう。
「朝ってすぐに時間が経っちゃうからついギリギリになっちゃうよね。それでも、あと5分早く来ると、バタバタせずに仕事が始められるんじゃないかな」
では、逆に部下の立場から上司の行動を改善してほしいときはどうでしょうか。例えば――これはかなり難しいチャレンジですが――「禁止(否定)+命令」で伝えてくる上司に、「合わせる+導く」で改善してほしいことを伝えるにはどのようにしたらいいのでしょうか。上司の「禁止(否定)+命令」の振る舞いで嫌な思いをしていたら、通常「目には目を歯には歯を」のような形で、次のように伝えることでしょう。
「その否定的な言い方はやめてください。もっと違う言い方があるのではないでしょうか」
このようなことは上司にはなかなか言いづらいので、つい言葉を飲み込むのが実際のところかもしれません。そこで、DJポリスのように「合わせる+導く」を意識すると、こんな感じになるでしょう。
「人をまとめる仕事は本当に大変だと思います。それでも、もう少し前向きな言い方をしていただくことができたらうれしいのですが……」
Aさんは社員数名を抱える経営者です。ある日、あまりの忙しさにスタッフの1人が会社を辞めると告げてきたそうです。仕事が軌道に乗り始めていたこともあって、「まいったなあ」とAさんは思ったそうです。
「なんでこんな大事な時期に辞めるなんて言うんだ。頼むからもうしばらく辞めないでくれよ」――Aさんは思わずそう言いそうになったそうです。しかし、コミュニケーションのトレーニングをしたときの「合わせる+導く」ルールを思い出し、スタッフがどんな気持ちで辞めると言い出したのか、思いを巡らしたそうです。そしてスタッフの気持ちに合わせ、こう告げたそうです。
「大切なことを正直に話してくれてありがとう。今まで悩んでつらかっただろう。それに気づいてやれなくて本当にごめんな。けれども、会社としては今大事な時期でもあるんだ。だから、これからも一緒に働いて欲しい。これから先のことを一緒に考えよう」
そうしてAさんとスタッフは話し合いの場を持ち、スタッフの現状を確認するとともに、あらためて仕事への思いを伝え、仕事の目的を共有することができたAさんとスタッフはまた一緒に働くことができるようになったそうです。
このようなことは頭で理解できたからといってすぐに実践できるものではないかもしれません。特に、感情が高ぶっているときはそうでしょう。しかし、警察官の皆さんもトレーニングをしていると報道で観ましたが、使う言葉を「禁止(否定)+命令」から、「合わせる+導く」に意識を変えることで、職場の同僚といい関係を築き、一体感のある職場にしていけるのではないかと思います。
ここまで読んで「相手は社会人なのに、そこまで気を使って伝えなければいけないのか」「もっと強く言わなければ相手からなめられてしまうのではないか」と思う人もいるでしょう。以前は私もそう思っていました。けれども「禁止(否定)+命令」では職場の空気が悪くなったり、同僚や部下の口数が少なくなったりして、お世辞にも一体感がある職場とはいえませんでした。
もちろん、時には強い口調で「禁止(否定)+命令」することが必要な場合もあるでしょう。しかし、相手に拒絶されては意味がありません。同僚や部下に行動を変えてほしいなと思ったとき、DJポリスがそうであったように「合わせる+導く」を意識すると、「この人なら分かってくれる」という信頼感が生まれ、要求を受け入れてもらいやすくなるでしょう。
あなたもいつか、「DJビジネスマン」といわれる日が来るかもしれません。
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