仕事に迷いが生まれたら――自分のモチベーションを回復する2つのアプローチ田中淳子の人間関係に効く“サプリ”

1年の目標を立てて行動するのは良いことだが、目標を立てるのが苦手な人もいる。大事なのは目標を立てることではなく、迷いが生まれたときに前に進む力を持つことだ。それには2つの方法がある。

» 2014年01月30日 10時00分 公開
[田中淳子,Business Media 誠]

田中淳子の人間関係に効く“サプリ”:

 職場のコミュニケーションに悩んでいる人も多いのではないでしょうか。「上司にこんなことを言ったら怒られるかもしれない」「部下には気をつかってしまうし」――。

 本コラムでは、職場で役立つコミュニケーション術をご紹介します。具体例を挙げながら「なるほど! こういうやり方があるのか」「これなら自分でもできるかもしれない」と感じてもらえるよう、筆者が見聞きした出来事を散りばめています。

 明日から……ではなく、いますぐに試すことができる「コミュニケーションのヒント」をご紹介しましょう。


 2014年もあれよあれよという間に1カ月が経過してしまった。一般的に“今年の目標”を掲げ、目標に向かって1年間努力するのはよいことだと言われている。仕事に迷いが生じたときや、モチベーションが下がったときに目指すべきものを確認できるからだ。しかし、こうした未来の目標を立てるのが苦手な人もいる。

 実は私もそんなひとりだ。社会人になって以来、面談のたびに繰り返し上司から「3年後にどうなっていたいの?」「10年後はどういう姿を思い描いているの?」と聞かれても、明確に答えられなかった。そして内心「そんなこと分からない」と思っていたのだ。

 ところが、コーチングのプロである平本あきおさんの話を聞いたときに考えが変わった。平本さんによれば、人のキャリア観には「ビジョン型」と「価値観型」の2種類があるのだという。

 ビジョン型は「将来、こうなっていたい」「何年後にはこんな状態を実現しよう」と目標を思い描き、その実現に向けて日々を過ごしていくというタイプ。一方、価値観型は先の目標をあまり描かず、「今、これが大事」「今、これが好き」「今、これにこだわっている」というように、現時点での価値観を軸に前進していくタイプだ。ビジョン型は欧米人に多く、日本人はどちらかといえば価値観型が多いと平本さんは話していた。

 当時、「将来のビジョンが明確に持てない自分は、社会人としてダメなのかもしれない」と悩むこともあった。しかし、平本さんの話を聞いてから、私は先々のビジョンよりも「今大事なこと」を意識しながらキャリアを積んできた“価値観型タイプ”なのだと分かり、ようやく気が楽になった。

 ビジョン型で前進できる人はそれでいい。ビジョンより、今大事なことを軸に自分を鼓舞する価値観型であればそれもアリだ。目標を立てるのが重要なのではなく、いざというときに前に進む方法があることが大切なのだ。

「原点回帰」で自分のやる気を刺激する

 このビジョン型/価値観型という考え方は、自分のモチベーションを現在や未来から持ってくるアプローチだ。一方で自分の過去からモチベーションを意味づける方法もある。自分の“原点”を思い出すことだ。なぜ、今私がここにいるのか。ビジョン型の人も価値観型の人でも自問自答できる。

「私は、何がきっかけでこの業界を選んだのだろう」

「私は、何をしたくてこの職業・職種についているのだろう」

「私は、なぜこの会社にいるのだろう」

 自らの原点は、意外と振り返る機会が少ない。人に聞いてみても即座に思い出せない場合が多いものだ。今では就職活動で自己分析という名のもとに、こうした振り返りを行う就活生が多いが、社会人になると過去を振り返ってみる機会はほぼない。入社3年目くらいの若手であっても質問すると「何がきっかけだったかなあ?」ときょとんとする場合もある。

photo とっさに自分の“原点”を思い出すのは難しいが、人と話すなりすると上手くいくことも多い

 時間をかけて思い出していくと、徐々に「ああ、あれがきっかけだった」「あの時、こういう想いがあって今の職業に就いたのだ」と言葉になっていく。自問自答が難しい場合は、誰かと原点について語り合うのもいい。

「そういえば、学生時代に○○の研究をしていて、その分野に近いことをしている企業を探していたら、この会社が見つかったんだった」

「父がこの業界にいて、父に仕事の話をいろいろ聞いているうちに“お父さんが見てきた世界”を自分も体験したいと思ったのがきっかけだった」

 こんなふうに相手のキャリアを聞いているうちに、ふと自分の原点を思い出すこともある。自分が今、何をしているのか、これからどうしたらいいのか、と足元がふわふわしているような気持ちになった時、この“原点回帰”は非常に有効だ。

 自分の原点を思い出すことで、今に至るまでの道筋もなんとなく見えてくる。今は出発点と異なることをしていても、その想いは意外と共通していたりするものだ。それが分かってモチベーションが再燃することも多い。

原点は他人に気付かされることも

 こんな話がある。

 仕事で迷いが生じ、モチベーションも低下しかけていた30代の女性。ある高校からの依頼で、高校生の会社見学のエスコート役を担当した。目を輝かせながら自分に向けられる数々の素朴な疑問に答えながら、彼女は「ああ、私はこういうことがしたくてこの仕事に就いたんだった」「私は、この仕事のここが好きでこの業界にいるんだな」と自分の中で、再び仕事の意味付けができたという。

 「いろいろ詳しく教えていただき、ありがとうございました」と元気よく帰っていった高校生を見送ったあと、彼女は「私のほうこそ、自分の原点を思い出すきっかけになった」と嬉しそうだった。これは他者に自分の仕事について話すことが、自分の原点を思い出すきっかけになったという一例だ。

 自分の原点を振り返ることは、自分のやる気を刺激し、今とこれからを考えるきっかけになる。誰かの原点を聞けば、それが相手のやる気を刺激し、これからのことを考える機会を作る手伝いになるかもしれない。ビジョン型/価値観型で目標を立てることと合わせて、仕事に迷いが生じたら試してみてほしい。

著者プロフィール:田中淳子

田中淳子

 グローバルナレッジネットワーク株式会社 人材教育コンサルタント/産業カウンセラー。

 1986年上智大学文学部教育学科卒。日本ディジタル イクイップメントを経て、96年より現職。IT業界をはじめさまざまな業界の新入社員から管理職層まで延べ3万人以上の人材育成に携わり27年。2003年からは特に企業のOJT制度支援に注力している。日経BP社「日経ITプロフェッショナル」「日経SYSTEMS」「日経コンピュータ」「ITpro」などで、若手育成やコミュニケーションに関するコラムを約10年間連載。


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