会話や文書の中では、主語と動詞をハッキリさせないと誤解が生まれます。勘違いを防ぐためにも、「あれ」や「例の件」などの代名詞はできるだけ使わないようにするのが賢明です。
本連載は、金子敦子著、書籍『「で、結局何が言いたいの?」と言われない話し方』(日本実業出版社)から一部抜粋、編集しています。
「そんなつもりじゃないのに……」
「なんで、分かってくれないの!」
「聞いてないよ、って言われても」
一生懸命話しているのに思った通りに伝わらない、話しているうちに伝えるべきことが分からなくなる……。こう感じたことがある人は少なくないのではないでしょうか。
本書では、「打ち合わせ」や「会議」「プレゼン」など、さまざまな場面におけるコミュニケーションのポイントを紹介。仕事で必要な「本当に使えるコミュニケーション能力」を身につけるコツをやさしくまとめました。
・伝わらないほうがあたりまえ
・表現だけでなく、中身も大事
・打ち合わせのゴールは、「誰が」「いつまでに」「何をするのか」
・プレゼンのゴールは、聞き手の成果につながること
・飲み会は「楽しむのが目的の会議」
「誤解なく、確実に自分の言いたいことを伝える力」が身につく1冊です。
上司に報告する際、次のような言い方をする人がいます。
「『ぜひ、この企画をやろう』と言っているんですよ」
これでは、誰がやろうと言っているのかが分かりません。ほかの部署の人か、あなたか取引先か、誰がやろうと言っているのでしょうか。ほかにも、上司のところにあわててかけ込んで、こんな言い方をする人もいます。
「急がないと、マズイことになるんです」
これではお客さまに対してマズイのか、自分の会社、部下個人にとってマズイのかが分かりません。これらの会話が不鮮明だったり、いろいろな意味にとれてしまうのは、主語と動詞がハッキリしていないことが原因です。
アナリスト時代、私が書いた日本語のリポートは、英語のネイティブの翻訳チームが英語に訳してくれていました。それ以来、リポートを書く際には英語の翻訳チームが訳しやすいように、また誤訳しにくいように、英語の文法の特徴を意識して書くクセがついています。
翻訳チームの誤訳を避けるためにまず注意したのは英語スタイルの構成、つまり「主張+根拠2、3つ」のパターンを守って論理展開を明快にすることです。さらに、もう少し細かいレベルだと、次の2点です。
この2つのポイントを意識するだけで、冒頭の2つの会話列でも内容が明確になります。それぞれのポイントを見ていきましょう。
まず、英語では日本語以上に主語と動詞をハッキリさせます。これは聞いたことがある人も少なくないでしょう。もちろん、英語でも主語と動詞を省略して「Water!(水!)」などと単語で返答することもありますが、やはりそれは会話のなかでもごく一部です。
英語では、文頭に置かれる主語+動詞によって、「誰が」「何をしたのか・するのか」が明確に分かります。
次に、代名詞はできるだけ使わないようにしましょう。「それ」や「あれ」は、前の文全体を受けるのか、それとも特定の何かを指すのかがつかみづらいことがあります。
上司との報告で、「あの件に関しては、あとで進めておきますね」などと、その場ではなんとなく会話が交わされていても、「あの」が何を指しているか上司と部下で認識が違っていることもあります。
アナリストは投資家が投資判断するために情報を提供します。投資家とのコミュニケーションで、これら2点に加えて論理展開のスタイルを守っていると、誤解が少なくなることは身をもって感じました。
聞き手に余計な疑問を抱かせない。
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