もしも「松田聖子のディナーショー」をプロデュースするなら?ナレッジワーキング!!

「マーケティング」というと、とっつきにくいイメージがあるかもしれません。でも、馴染みのある分野の戦略を考えてみると、とたんに分かりやすくなるものです。

» 2014年08月20日 08時30分 公開
[永田豊志,Business Media 誠]

 筆者のワークショップでは、フレームワークを使って身近なテーマに挑戦してもらっています。マーケティングは、専門分野でない人からするとちょっととっつきにくい分野かもしれません。でも、自分のよく知る分野であれば、「あ〜、これがマーケティングというものか」と合点がいきやすいのではないでしょうか? 今回のテーマは「もし、あなたが松田聖子のディナーショーを企画するプロデューサーだったら?」というものです。

マーケティングプロセスとは、まず顧客の絞り込みから

 マーケティングのフレームワークといえば、「マーケティングプロセス」「マーケティングの4P」が有名です。

マーケティング マーケティングプロセスとマーケティングの4P

 マーケティングプロセスは、市場全体から顧客となるターゲットを絞り込んでいく過程です。通常は、市場の中から対象となり得る「顧客セグメント(属性)」を決めます。例えば性別、年齢、年収、所在地といったものです。性別や年齢は「デモグラフィック」属性と呼ばれ、所在地は「ジオグラフィック」属性と呼ばれます。

 また、消費行動自体は、その人の価値観や行動パターンにも大きく左右されます。価値観、趣味、嗜好などの心理属性は「サイコグラフィック」属性、いつもこんなパターンで行動しているといった属性は「ビヘイビアル」と呼ばれます。

 次に、属性をベースにしてどういう組み合わせの人をターゲットとするのかを決めます。例えば「30代女性、独身、都市部に住むキャリアウーマン、自分の好きなことにはとことんこだわる、質素倹約ではなく消費先行型」といった具合です。

 通常は競合が存在するので、多くの類似製品の中で自社製品の位置付けを決めます。これが「ポジショニング」と呼ばれるものです。

松田聖子のディナーショーの顧客ターゲットは?

 話を松田聖子のディナーショーに戻しましょう。あなたなら顧客ターゲットをどのように決めますか?

 松田聖子が最も活躍したのは1980年代前半です。当時は「ザ・ベストテン」などの歌番組が大人気で、中森明菜と並ぶ2大トップアイドルでした。当時、中学生や高校生で、テレビにかじりついて見ていた人たちは今は40代、50代のはずです。

 次に、顧客ターゲットの性別ですが、松田聖子の交際と破局を繰り返す波乱の人生、海外進出、シングルマザー、自分ブランドのビジネス、あくなき美とアンチエイジングへのこだわりなど、今、共感を感じるのは女性のほうかもしれません。

 40代、50代といえば、バブル世代が含まれます。世の中がイケイケドンドンで、シャンパンタワーやブランド品に身をつつむのがかっこいいとされた時代です。筆者の講義でも、多くの生徒が松田聖子の顧客ターゲットとして「40代、50代の女性で、自分で仕事をしているか、高収入でお金にゆとりのある、ブランドに身をつつんで、高級フレンチを楽しむなど趣味にはお金をつぎこむタイプ」を挙げています。

 実際のディナーショーにきているお客さんも、このターゲティング層か、あるいは同年代の夫婦ということだそうです。また、ディナーショー会場には、高級アクセサリー、バッグに毛皮(ディナーショーはクリスマスの時期)に身をつつんでくるんだとか。気分はバック・トゥ・ザ・バブル……という感じですね。

マーケティングミックスの4P

 顧客ターゲティングが決まったら、フレームワーク「マーケティングミックスの4P」を使って、各要素を決めていきましょう。

 4つのPは、プロダクト戦略、プライス(価格)戦略、プレイス(流通)戦略、プロモーション戦略の頭文字からとったものです。マーケティングでは、この4つの要素を、ターゲット顧客に対して最適に設計することが重要とされています。

 まず、プロダクト戦略。商品の仕様を決める作業です。顧客の価値観や行動特性を考えると、なるべく「ゴージャス」なほうがいいでしょうね。ウェルカムドリンクはシャンパンで、高級フレンチを食しながらのディナーショーです。もちろん、通常のコンサート会場では味わえない、アーティストと観客の密着したふれあいも大事な要素です。

 次に、プライス戦略。高級ホテルのディナーというだけでも通常は1万5000円や2万円はザラです。クリスマス時期ならなおさら。そこに目の前で歌ってくれるプレミアムが加わるわけですから、プラス2〜3万といった具合でしょうか。筆者の生徒の多くは5万前後と設定した人が多かったようですが、実際の価格は4万8000円。なかなか、良いところを突いていますね。

 ちなみに、これまでディナーショー価格のトップは五木ひろしの5万円といわれていましたが、2013年末に初めて開催された矢沢永吉のディナーショーが6万円で最高値を更新したそうです。

 プレイス戦略は、どのような経路で製品を提供するかを決めることです。ディナーショーですから、チケットをどのように提供するのかということになります。ホテル直販売にするか、プレイガイドなどで取り扱えるようにするのか、はたまたWebサイト決済にするのか、いろんな手だてが考えられます。

 実際には、いろんなパターンがあるようです。最近は、このディナーショーは人気でキャンセル待ちになるそうで、チケット優先権のあるファンクラブに入る人も多いとか。

 最後にプロモーション戦略です。世代的には完全にインターネット世代とは言えないかもしれません。PCやハイテクが苦手という人も多数いるでしょう。ネット広告よりも、車内広告や街のポスターなどのほうが効果的なのではないでしょうか。

 プロモーションには、5つの手段があると言われます。広告(不特定多数・有料)、セールスプロモーション(特定多数・有料)、パブリシティ(不特定多数・無料)、セールス(特定少数・コストは人件費)、そして最近特に重要視されているのが口コミ(不特定多数・無料)です。

 実際、商品力があれば最も費用対効果が高いのは口コミです。口コミは金を使えば作れるということはなく、あくまで商品力があり、そのファンが自分の意思で伝播させることがポイントです(こうした人を「インフルエンサー」と呼びます)。

 松田聖子のディナーショーでいえば、多くの人がリピーターだそうです。熱狂的なファンということですから、口コミが効いてくると思われます。無用な広告を垂れ流す必要はなく、実施の告知だけすれば、あとは「なかなかチケットがとれない」という枕詞によって、口コミが勝手に広まると思われます。

 最後に、筆者の講義で生徒さんから出た面白いアイデアもいくつか紹介しましょう。

  • 会場でより松田聖子に近く、写真が一緒にとれる権利などもつけてプレミアムボックスシートを10万円以上で売ってはどうか?
  • 「自分の住んでいる地域でディナーショーをやっていない」という人も多いだろうから、地方から来る宿泊・交通手段付き旅行パックを作ってはどうか?
  • 当然、グッズ販売はしていると思うが、前年度のディナーショーの模様をDVDにして次の年に売れば、よりリピート率が高まるのでは?

 さあ、みなさんなら、どんなマーケティング戦略を練りますか? このようなテーマでマーケティングを考えると、何となくとっつきにくいフレームワークも、少し身近に思えてくるのではないでしょうか。

著者紹介 永田豊志(ながた・とよし)

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 知的生産研究家、新規事業プロデューサー。ショーケース・ティービー取締役COO。

 リクルートで新規事業開発を担当し、グループ会社のメディアファクトリーでは漫画やアニメ関連のコンテンツビジネスを立ち上げる。その後、デジタル業界に興味を持ち、デスクトップパブリッシングやコンピュータグラフィックスの専門誌創刊や、CGキャラクターの版権管理ビジネスなどを構築。2005年より企業のeマーケティング改善事業に特化した新会社、ショーケース・ティービーを共同設立。現在は、取締役最高執行責任者として新しいWebサービスの開発や経営に携わっている。

 近著に『知的生産力が劇的に高まる最強フレームワーク100』『革新的なアイデアがザクザク生まれる発想フレームワーク55』(いずれもソフトバンククリエイティブ刊)、『頭がよくなる「図解思考」の技術』(中経出版刊)がある。

連絡先: nagata@showcase-tv.com

Webサイト: www.showcase-tv.com

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