自社のサービスやブランドの認知度を自前のメディアを運営することで高めていくオウンドメディアが活発です。スタート当初は懐疑的なメンバーもいたというLIGの戦略を岩上社長に聞きました。
「オウンドメディア(Owned Media)」という言葉がよく使われるようになりました。直訳すれば「自己所有メディア」。つまり、企業やブランドがお金を払ってサイトに広告を出すのではなく、自分で情報発信の口を持って運営していくWebサイトのことです。
近年、企業のマーケティングメディアとして最重要な「3つ」のチャネルがあると言われるようになりました。オウンドメディアに加えて、有料広告による情報発信を行う「ペイドメディア(Paid Media)」、FacebookやTwitterなどのSNSによって口コミ拡散を狙う「アーンドメディア(Earned Media)」です。この3メディアを連携させてマーケティング活動を行う「トリプルメディアマーケティング」も注目されています。
筆者が経営するショーケース・ティービーでも、2つのオウンドメディアをスタートさせました。1つはWebマーケティング担当者向けの「EFOナビ」といい、入力フォームの改善に特化したニッチなノウハウブログです。もう1つはエンジニア向けに自社の技術ノウハウや開発員の興味関心ごとを紹介するテックブログ「bitWave」。
双方ともメディアビジネスを行うことが目的ではありません。前者は自社製品の顧客となり得る潜在層に対するナーチャリング(有望見込み客を育てるためのマーケティングプロセス)、後者はなかなかうまくいかない技術者採用という課題の解決を目指しています。
オウンドメディアが注目される中で、運営上の難しさもつきまといます。企業所有メディアとはいえ、メディアであるかぎりは読者が存在し、その読者に対して訴求する内容を継続的に発信していかねばなりません。本来の業務に加え、メディアの編集体制を作り、記事の作成と品質チェック、サイト運営管理を行う必要があります。SEO(検索エンジン対策)やさまざまな集客施策など、サイト改善のPDCAを回さなければなりません。
オウンドメディアの成功事例として知られるのが、東京・上野にあるWeb制作会社LIGの「LIGブログ」です。今回は、同社の岩上貴洋社長にオウンドメディアの育て方、LIGブログにおける成功と失敗のノウハウを聞きました。
「2012年から自社ブログに本格的に力を入れ始めました。テレアポや営業は苦手だったので、何とか問い合わせをWebからもらえるようにならないかと。それから、採用活動にもつながるかもと思ったのです。また、ブログ投稿を通じて伝えることのスキルが向上するのではないかという期待もありました。最初は自社メディアに懐疑的なメンバーもいましたので、経営陣が率先して毎日ブログを更新しました」(岩上社長)
当初は月間2万PV程度だったLIGブログですが、一気に90万PVに飛躍する大ヒット記事が生まれました。「伝説のWebデザイナを探して」という求人記事です。過酷な仕事を強いる社長をデザイナーが拉致して、砂浜に埋める――というネタが拡散して、その後のPV数のベースを押し上げることになります。
「PV数が跳ね上がっても、おもしろ記事だけではすぐに元に戻ってしまいます。しかし、LIGブログの8割はWebクリエイティブ系のまじめな記事。ネタ記事をきっかけに、まじめで役立つコンテンツを読んでもらえれば、全体の閲覧ベースが上がるのです。毎日まじめ記事をコツコツ増やし、2割のネタ系の記事による拡散を狙うことで現在では月間400万PVまで達しました。今では自社ブログを用いたWebマーケティング事業が全社の3割くらいを占め、大きな柱の1つに成長しました」(岩上社長)
もともとWeb制作会社ということもあり、サイトのコンテンツづくり、デザイン、運用はプロフェッショナルです。多くの社員が顔出しで登場していますが、それもプロのモデルと社員モデルとでABテスト(クリエイティブの異なる2パターンでクリック率やコンバージョン率を比較する検証方法)を行った上で判断しているそうです。
ブログへの力の入れ具合は並大抵ではありません。そういった意味ではLIGブログの成功はレアケースかもしれません。オウンドメディアの目的の多くは収益化よりもファンづくりです。自社あるいはブランドをより多くの人に知ってもらい、共感してもらえればそれで成功です。LIGブログが「社員みずから登場」「社内情報垂れ流し」にこだわるのも読者に共感してほしいという思いからです。
いろんな手法のマーケティングや話題のメディアが登場しようとも、自社のブランドを伝えるためにオウンドメディアほどふさわしいプラットフォームはないでしょう。まずは、できるところから始めてみるのが大切なのではないかと思う今日このごろです。
知的生産研究家、新規事業プロデューサー。ショーケース・ティービー取締役COO。
リクルートで新規事業開発を担当し、グループ会社のメディアファクトリーでは漫画やアニメ関連のコンテンツビジネスを立ち上げる。その後、デジタル業界に興味を持ち、デスクトップパブリッシングやコンピュータグラフィックスの専門誌創刊や、CGキャラクターの版権管理ビジネスなどを構築。2005年より企業のeマーケティング改善事業に特化した新会社、ショーケース・ティービーを共同設立。現在は、取締役最高執行責任者として新しいWebサービスの開発や経営に携わっている。
近著に『知的生産力が劇的に高まる最強フレームワーク100』『革新的なアイデアがザクザク生まれる発想フレームワーク55』(いずれもソフトバンククリエイティブ刊)、『頭がよくなる「図解思考」の技術』(中経出版刊)がある。
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