芥川賞『火花』おめでとー記念 文学賞を2倍楽しむ方法出版社のトイレで考えた本の話(3/4 ページ)

» 2015年08月21日 08時00分 公開
[堺文平ITmedia]

ひっそりと咲くビジネス系の賞

 芥川賞や直木賞とは比べるべくもないが、実はノンフィクション系やビジネス系においても、こうした賞がいくつかある。

 ノンフィクションでは「大宅壮一ノンフィクション賞」が有名だ。芥川賞と同じく、実質的に文藝春秋が運営している。ほかには講談社ノンフィクション賞、集英社の開高健ノンフィクション賞など、大手出版社だけでもさまざまな賞が設けられている。

 これらと比べると、ビジネス書の賞は少なく、やや小粒な印象は否めない。ビジネス書版元のディスカヴァー・トゥエンティワンやオトバンク、NewsPicksなどが主催する「ビジネス書大賞」や、コンピュータ書・ビジネス書を得意とする翔泳社の「ITエンジニアに読んでほしい!技術書・ビジネス書 大賞」などがある。ビジネス書や技術書というカテゴリーを盛り上げたい思いは伝わってきて、個人的には好感を持っているが、知名度的にはまだこれからである。

 「城山三郎賞」は、実質的にKADOKAWAが運営する賞だ。主催者の角川文化振興財団のサイトで賞の説明を見ると、「小説、評論、ノンフィクションを問わず、いかなる境遇、状況にあっても個として懸命に生きる人物像を描いた作品、あるいはそうした方々が著者である作品を顕彰するために、2014年度から新たに創設したもの」とある。正直、だいぶあいまいな選考基準だが、まあ「人間ドラマっぽい感じの本」ということか。

 もともとはダイヤモンド社が「城山三郎経済小説大賞」(旧・ダイヤモンド経済小説大賞)という賞を運営していたのだが、2012年をもって終了。KADOKAWAはそれを引き継いだ形だ。ダイヤモンド社の関係者に理由を聞いたところ、「直接の担当ではないので、あくまで個人的な見解だが」と前置きしながら、「昔と違い、小説とはいえモデルにした企業からの訴訟リスクなどもあって、『経済小説』というジャンル自体の書き手や発表数が少なくなったから」、また「雑誌などの広告との関係で」といった複数の要素を挙げていた。

 KADOKAWAは、いわゆる書籍・雑誌の出版社としては、いまや売上規模でトップだが、講談社や小学館、あるいは文春や新潮など他の大手のラインアップと比べてみると、「総合出版社」ではないことが分かる。伝統的に会社方針として、週刊誌やビジネス誌など、経済・政治・社会などの分野のメディアを持っていなかったからだ。

 同社現会長の角川歴彦氏は、数年前からビジネス書やビジネス系メディアに強い興味を抱き、出版社の買収や雑誌の立ち上げも行っている(結局、ビジネス系雑誌は創刊1年ほどで休刊してしまったようだが)。ビジネス系のプレゼンス増大の観点からすると、日本の経済小説のパイオニアである城山三郎の名を冠した賞は「おいしい」といえる。また、それまでの「経済小説」というカテゴリーではなくしたのも、名と実の両方をとった妥当な戦略だろう。

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