一周して最先端、オートマにはないMT車の“超”可能性池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/4 ページ)

» 2016年03月07日 08時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

 今やクルマの変速機においてマニュアルトランスミッション(MT)は少数派である。フェラーリやポルシェ、日産GT-Rといったクルマでさえ続々と自動変速機(AT)が主流、あるいはATのみになっており、MTは風前の灯火かと思われていた。今でもそう思っている人は多いだろう。

 しかし、ここへきてその流れが少し変わってきた。スズキは昨年末にデビューしたアルト・ワークスのCMで「いま、マニュアルに乗る」というキャッチコピーを採用した。それは当然ながら「MTにはATと違う付加価値がある」という一定の共通概念に依拠した訴求方法である。

復活したアルト・ワークス。マニュアルトランスミッション(MT)を訴求の中心とするコマーシャルは新鮮だ 復活したアルト・ワークス。マニュアルトランスミッション(MT)を訴求の中心とするコマーシャルは新鮮だ

 ネットを見回してもオートマ派とマニュアル派の議論は永遠のテーマの1つで、まさに議論百出。結論はそう簡単に出ない。だからこそ、2016年の今、新しいビジネスチャンスをそこに見出そうとしているメーカーは意外に多いのだ。トヨタは86で、ホンダはS660やNSXでと、それぞれにMTに相応しいクルマをラインアップしている。

 今回はそのMTの魅力と、新時代にふさわしいMTの進歩について考えてみたい。

意のままに操れる

 MT派の人たちの意見の多くは「意のままに操れる」というものだ。変速のタイミングやギヤのセレクトが自由という意味だと思われる。それはそれで間違いではないと思うが、実はMTの最大の魅力はドライブトレーン全体のダイレクト感だと筆者は思っている。

風前の灯火かと思われたMTに復権の兆し。その先に何があるのだろう? 写真はスズキ・アルト・ワークスのシフトノブ 風前の灯火かと思われたMTに復権の兆し。その先に何があるのだろう? 写真はスズキ・アルト・ワークスのシフトノブ

 同じ場所をぐるぐる円を描いて回っているとしよう。いわゆる定常円旋回だ。速度が一定のとき、舵角と走行ラインの関係は一定で、外にはらんだり内に巻き込んだりしない。ここでアクセルを操作するとどうなるか? 踏めば外に膨らみ、離せば内に巻き込む。これが普通のクルマの普通の挙動だ。つまりクルマの進路はアクセルの操作で調整できる。その調整のダイレクト感においてMTは極めて優れている。ATが特定の局面でMT並みということはあっても、MTより優れるということは起きない。

 もう少し詳細に見てみよう。定常円旋回において、クルマの軌道を変える方法は2つある。1つはハンドルを切ることで、もう1つは上述のアクセルワークだ。「何もアクセルでやらなくてもハンドルを切れば」という意見もあるだろう。しかしラインの微調整にはアクセルの方が向いているし、緊急回避のような局面では、ハンドルとアクセルの両方を同時に使うことによって、より大きく進路を変えることができる。

 つまりアクセルによる挙動コントロールのリニアリティの理想型はMTなのだ。前述した「意のままに操れる」快感があるとしたら、この挙動変化の自在さにこそ最も意味があるのだと思う。

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