男性も女性も子育ては楽ではない、だから感動があるのだ内田恭子の「いつもそばに本があった」(1/3 ページ)

» 2016年04月14日 08時30分 公開
[内田恭子ITmedia]

内田恭子の「いつもそばに本があった」:

幼いころ両親に読んでもらった絵本、学生時代に読みあさった小説、アナウンサーの就職面接で朗読したバイブル的な一冊、そして今度は自分が親となり子どもたちに本を読み聞かせている――。これまでの人生を振り返ってみると、常に私の傍らには本がありました。

この連載では、日常生活の中で出会った数多くの本たちをエピソードなどとともに、ビジネスパーソンの皆さんにご紹介していきます。


 新年度が始まったこともあり、このところ子育ての話題が尽きません。読者の中にも共働きで育児をしている方は多いのではないでしょうか。大昔と違い、今となっては決して珍しいことではありません。風邪をひこうが、仕事が多忙を極めようが、子育ては待ってはくれないのは、皆さんも実体験からよくご存じのはずでしょう。

 そんな私も季節の変わり目に久しぶりに体調を崩し、起き上がるのが辛い日が続きました。とはいえ、ゆっくり休んでいるわけにはいきません。我が家の5歳と3歳のボーイズから5分ごとに「ママー」とコールがかかるのです。「ママー、お腹空いた」「ママー、お兄ちゃんが悪いことした」「ママー、剣はどこ?」「ママー、抱っこ」。これが延々と続く。しまいには「ママー、トイレに行ってくるね」。もう、勝手に行ってきてくださいよ。

 夜もひどい頭痛のため、なかなか寝付けません。けれども、ここで寝ておかないことには、翌日再びボーイズに付き合う体力と気力がもちません。仕方がないから頭痛薬を飲んで、ようやく眠りにつけた……はずが、暗闇からまたもや「ママー」。重いまぶたを必死で開けてみる。そこには顔面血だらけの次男が泣きじゃくりながら私の枕もとに立っているのです。「ママー、鼻血ー」。

 うーん、泣きたいのはこちらの方だ。フラフラしながら着替えさせ、汚れたパジャマとシーツを洗い、また子どもを寝かせ付ける。「ゆっくり寝たい」と心から切望するものの、無情にもすぐ朝がやって来る。そしてまた、ママコールの一日が始まるのです。

育児のマニュアルではない

 そんな日々を過ごしている中、ふと本棚にあった1冊の本に目が止まりました。アクセル・ハッケとミヒャエル・ゾーヴァの「パパにつける薬」。

ミヒャエル・ゾーヴァが描く作品の数々 ミヒャエル・ゾーヴァが描く作品の数々

 ドイツのベストセラー小説である「ちいさなちいさな王様」で、ミヒャエル・ゾーヴァの絵を目にした方も多いかもしれません。幻想的で、どこかシュールで、たった1枚の絵からいくつものストーリーが次々と生まれてきそうです。

 いったん眺め始めるとなかなか目が離せなくなるという、とにかく魅力的な作品が多いのです。そんなところに魅せられ、彼の作品を集めていたときに手に入れたのが、このパパにつける薬という本です。当時は子どもがいなかったため、育児って大変なんだ、くらいにしか思っていなかったわけですが、久しぶりに手にとってみると、何とも奥深いこと!

 この作品は、育児のマニュアルでもないし、育児のバタバタ劇を面白おかしく描いているわけでも、育児の悩みに答えてくれるわけでもありません。育児をしている限り、誰もが経験することを、独自の視点で淡々と描いているのです。これが妙に心に突き刺さります。

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