自動車デザインの「カッコいい」より大事なもの池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/5 ページ)

» 2016年06月20日 08時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

基本操作のしやすさ

 次に大事なのは主要インタフェースの操作性だ。言うまでもなく、ハンドルとペダル類のことになる。これはシート設計とセットになったもので、学校の椅子のような座り方、つまりアップライトな姿勢であればハンドルはトラックのように上を向いた方が操作しやすい。この座り方だと人体の構造上、ペダルは踏み下ろす形になるから、ペダルのストローク方向もそれに見合った上から下へという向きであるべきだ。ちなみに、踏み下ろしの場合、ペダルオフセットはより深刻度が高まる。踏み下ろしの場合、筋力を有効に使える角度が限られており、力の入りやすい位置にないと無理の掛かった筋肉に疲労が溜まる。

 ビーチベッドのように足を前に投げ出して、上体を倒して座る場合、ハンドルの面はドライバーの胸に向かっているべきだ。トラック方式だとハンドル外周の遠近差が大きくなりすぎて操作に支障をきたす。ペダルは前に向かって踏み込む形になる。このケースではペダルオフセットは比較的問題になりにくい。股関節の開き角度が変わってもそれほど筋力負担が変わらないからだ。

 ハンドルの形状も重要だ。例えば、三角形のハンドルを操作することを想像してほしい。非常に操作しにくいのは理解できるだろう。四角形だと少しマシだが、やはり角の部分では操作しにくい。だからこそ、ハンドルはどの位置で回しても握り位置が変化しない円形にデザインされているのだ。

写真では少し分かりにくいが、ハンドルの下端が円弧を描かない先代プリウスのハンドル 写真では少し分かりにくいが、ハンドルの下端が円弧を描かない先代プリウスのハンドル

 ところが、世の中にはD字を左に倒した形状のハンドルが少なくない。少なくとも運転上はデメリットしかない。乗降時に邪魔にならないというメリットが挙げられるケースが多いが、そんな話は言い訳にしか聞こえない。デザイナーが運転席からの眺めで最も目立つ部品に目新しさを持たせたかっただけの話で、主要インタフェースである運転中の操作性を犠牲にしてまでやることではない。

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