自動車デザインの「カッコいい」より大事なもの池田直渡「週刊モータージャーナル」(5/5 ページ)

» 2016年06月20日 08時00分 公開
[池田直渡ITmedia]
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安全とデザイン

 最後にそれ以外のインタフェースの話をしたい。メーターやインフォテインメントシステムだ。運転席から見た計器盤はハンドルの次に頻繁に目にするものなので、デザイナーが張り切り過ぎることが多い。しかし、本来計器盤が何のためにあるかと言えば、安全運転のためだ。だから視認性こそが最も重要で、計器に表示される内容こそが主役でなくてはならない。にもかかわらず、一生懸命その額縁を目立たせようとする。絵画より目立つ額縁があり得ないように、表示される情報よりメーターの飾りが目立つのは本末転倒だ。引き立て役に相応しい美しいデザインというものがあるはずだ。

 メーターに表示される内容は安全に運転できているかを確認するためのものなので、飾りのデザインには使ってはいけないはずの色がある。それは赤だ。クルマに何か異常事態が生じたとき、赤は警告を意味する。だからこそメーターの地色を赤にしたり、引き立て役のはずの飾りに赤のアクセントをあしらって、警告表示を目立たなくするのは計器盤の存在意義に対する挑戦だ。もう一度何のために何のデザインをしているかを考え直すべきだろう。

次期プリウスPHVのインパネ。液晶ディスプレイの進出ぶりがよく分かる。ナビに限って言えば、必要度の高い行き先方向の情報要素が増える縦型配置は合理的だ 次期プリウスPHVのインパネ。液晶ディスプレイの進出ぶりがよく分かる。ナビに限って言えば、必要度の高い行き先方向の情報要素が増える縦型配置は合理的だ

 現在カーナビを中心としたインフォテインメントシステムが計器盤での存在感を増している。電子装備が増え、そのセッティングなどの複雑な操作を行うためには、タブレットPCのインタフェースを模したタッチパネル型の液晶を使う流れにはやむを得ない部分もある。

 しかも液晶の組み込み位置がどんどん一等地へと昇格しつつある今、自動車メーカーとしてはそれを多用したくなる状況が整いつつあるのだ。しかし、運転中に操作が必要とされるものと、停止してから操作すればいいものの線引きは十分に行ってほしい。タッチパネルは言うまでもなく凝視して操作することを前提としたインタフェースであり、「歩きスマホ」の例を引くまでもなく、移動中に操作するものとしては相応しくない。

 一方で、ボタンやダイヤルなどの運転中の操作が比較的行いやすい物理スイッチは部品も組み付けコストも高いので、コスト低減の誘惑で、全てをインフォテインメントシステムに組み込みたくなる構造になっている。特に過渡期にある現在、運転中に必要な操作がインフォテインメントシステムに統合されていないかのチェックは十分に行った方がいいだろう。

 こうしたこと全てを消化した上で、なおかつ心動かされるデザインであることが本当のデザインなのだ。それは課題演技と自由演技のような関係と捉えることができるかもしれない。

筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)

 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。

 現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。

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