マスキングカラーも同じく定番を狙ったものだ。実は、はがせる塗料というもの自体は、塗料の世界では決して珍しくはない。けれども、一般の人たちにとっては新鮮なので、そこに小関は目を付けた。
「ただ、普通の人ははがせる塗料に馴染みがないので、親しんでもらう工夫が必要でした。はがせるテープがマスキングテープなので、まずは名前を『マスキングカラー』にしました。次に、塗料と言われても多くの人は接したことがないし、どう使っていいのか分かりません。実際に塗料を使うとなるとバケツやパレット、はけなどの道具を用意しないといけません。それが障壁になるのであれば、すべて取っ払って、ボトルから直接使えるようにペンタイプにしたのです」
定番のデザインを作る。小関にとっては、すぐに消費されるものよりも、長く愛されるものを作りたいという思いがある。しかも現在、定番になれるデザインが少なくなっているので、技術をうまく組み合わせて商品開発する取り組みが必要だと感じている。そういう意味で、日本にはマニアックな技術が多く、土壌としておもしろいのだという。それを引き出し、価値を与えていくのが自分自身の役割だとする。
その一方で、オーソドックスな文脈のデザインにも挑みたいと考える。例えば、師匠である喜多がその名を轟かせた椅子だ。
「これまでやってきた、ユニークな技術との組み合わせで定番を作ることはおもしろいし、意味もあると思います。一方で、デザイナーである以上、椅子のような王道の分野にも挑戦したい。そこにはスーパースターと呼ばれるようなデザイナーがひしめき合っています。彼らと同じ土俵に立って自分のデザインスキルと考え方がどこまで通用するかチャレンジし、世間を驚かせていきたい」
一度これだと決めたならば、ほかには目をくれず、そのことだけにとことん集中する。それが小関のこれまでの人生を形作ってきた。静かな闘志を燃やしながら語る彼の目は、未来を見つめて爛々と輝いていた。
(敬称略)
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