今までの常識や固定観念などにとらわれず、業界に風穴を開けたり、世の中に新しい価値をもたらしたりする変革者が存在する。彼らの多くには明確なゴールがなく、まるでとりつかれたかのように、常に前へ向かって全力で走り続けている。そうした者たちはどのように生きてきて、これからどのように未来を切り開いていくのだろうか。
幼少期の彼にとって何よりの楽しみは、粉末コーヒーの缶を開けることだった。その瞬間に広がるコーヒーの香りがたまらなく好きだったのだ。しかし、まだ2歳か3歳の彼に許されたのはそこまで。両親に「コーヒーを飲ませて」と頼んでみても、なかなか聞き入れてもらえなかった。
「自分もいつか大人のようにコーヒーを飲みたい」
ようやくその願いが叶ったのは4歳のとき。生まれて初めてコーヒーを口にした彼は一言、「まずい!」。
それが生涯愛することになるコーヒーとの出会いだった。
「こんなにいい香りを放っているのに、どうしてまずいんだろうというギャップが、私に興味を持たせてくれたのです」
米ブルーボトルコーヒーの創業者でありCEOのジェームス・フリーマンは、日本進出第1号店となる「清澄白河ロースタリー&カフェ」で、自らの“コーヒー原体験”をそう語った。大通りからは少し離れた静かな住宅街。周辺は人もまばらな平日の昼下がりだというのに、店には入りきれないほどの客であふれ、コーヒーを求める人たちの行列が店の外まで連なっていた。
ブルーボトルコーヒーが東京の下町、清澄白河に店をオープンしたのは2015年2月のこと。豆の品質にこだわり、注文を受けた一杯を丁寧に淹れる、いわゆる「サードウェーブコーヒー」の火付け役として注目されたオープン当初だったが、その熱はいまだ冷めやらぬようだ。
「焙煎から48時間以内の豆のみをお客さまに販売する」
創業時の誓いを今も守るのは、最高のコーヒーを人々に届けるためだ。日本の店舗でもこの原則は変わらない。しかし、いくら味にこだわりがあるからといって、客はコーヒー一杯のためにわざわざ行列に並ぶものなのだろうか。その謎を解く手掛かりは、来店客には気付きにくい“細部”に宿っていた。
「コーヒーの味はもちろん大事ですが、我々が一番大切にしているのは、お客さまの“体験”です。意識をしている、していないにかかわらず、ここで感じるすべての瞬間が体験となります。例えば、ドアノブに手を掛けたときのフィーリング。どのような材質、大きさにすれば手に残る感覚としてよいのかということを考えています。床にゴミが落ちていない、ということも店で体験できることの一つです」
時に「コーヒー界のアップル」と称されるように、ブルーボトルコーヒーは嗜好飲料を超えた新しい価値を提供しようとしている。ブルーボトルコーヒーのファンも、それに触れるために店にやってくる。無意識領域への働き掛けゆえ、気にしたこともないという人も多いのかもしれないが。
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