日本ではあまり馴染みがないが、海外では政治家や企業が自分に有利な情報操作を行うことを「スピンコントロール」と呼ぶ。企業戦略には実はこの「スピン」という視点が欠かすことができない。
「情報操作」というと日本ではネガティブなイメージが強いが、ビジネスにおいて自社の商品やサービスの優位性を顧客や社会に伝えるのは当然だ。裏を返せばヒットしている商品や成功している企業は「スピン」がうまく機能をしている、と言えるのかもしれない。
そこで、本連載では私たちが普段何気なく接している経済情報、企業のプロモーション、PRにいったいどのような狙いがあり、緻密な戦略があるのかという「スピン」に迫っていきたい。
先週、「ゾンビ業界」を揺るがす大きなニュースがかけめぐった。
映画『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』などで今の「ゾンビ像」を世に定着させたジョージ・A・ロメロ監督が亡くなったのである。
そんなマニアックなニュースは知らねえよ、という方も少なくないだろうが、実は「ゾンビ」は日本経済的にも決して無視できない存在になりつつある。
例えば、カプコンの『バイオハザード』は1996年に第1作発売以降、20年を経ても世界中に多くのファンがおり、シリーズタイトルは116、総販売量7700万本(2017年3月現在)を超え、映画など関連ビジネスも多岐にわたっている。
ハロウィーンイベントにおける「ゾンビ仮装」の人気も高まっている。火付け役のUSJでも、リアルなゾンビが襲撃してくる「ホラーナイト」は毎年大盛況。2016年からは、千葉県の稲毛海岸でゾンビと鬼ごっこをするイベントまで登場している。
これまで日本でゾンビ映画はマニアックな一部ファンにしかウケなかったが、2016年に公開された大泉洋さん主演の『アイアムアヒーロー』は興行収入16億円のヒットとなった。
また、米ケーブルテレビ史上最高視聴率記録を次々と塗り替えている『ウォーキング・デッド』が日本でも人気となっているなかで、2019年にはブラッド・ピット出演映画のなかで最もヒットした『ワールド・ウォーZ』の続編も公開される予定だ。このようなトレンドを踏まえれば、日本のゾンビ市場は今後も順調に成長していくことが予想されるのだ。
そう聞くと不思議に思うのは、なぜここにきて、ゾンビに魅せられる人が増えてきたのかということだろう。ネット上でも、「ゾンビが大量発生したらどう生き残るか」なんてことを真面目に論じている方も少なくない。
1つは「感染に対する恐怖」にあることは明らかだ。
ご存じのように、ゾンビにかまれた人はゾンビになるというのが基本ルールだ。鳥インフルエンザが猛威をふるった2005年や、新型インフルエンザが世界的に大流行した09年から、日本ではパンデミックという「恐怖」が一気に広まった。先ほどの『アイアムアヒーロー』(09年より原作漫画連載開始)も、「ZQN」(ゾキュン)と呼ばれる「感染者」が次々と人々をかんで、バンデミック的に世界中がゾンビ化していく物語である。
ただ、個人的にはそのような「潜在的恐怖」もさることながら、冒頭で紹介したゾンビ映画の父・ロメロ監督が世に伝えた「メッセージ」がここにきてようやく日本人にもピンとくるものとなったからではないか、と思っている。
それは、ゾンビとは実は「今を生きている我々の姿」だというメッセージである。
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